サッカークラブの株主ローンをめぐる論点 — 無利子の貸付は「支援」なのか

〜無利子で貸すのは、支援ではないのか〜£300m

サッカークラブの株主ローンをめぐる論点。オーナーがクラブに無利子で£300m貸す。返済義務はあるので寄付ではありません。しかし市場で借りれば利息がかかる。この差額は実質的な補助ではないのか——2024年、その問いが認められました。

サッカー財務ルール

前にAPTルール(オーナーの関連会社との取引は公正市場価値で行うこと)について書きました。マンチェスター・シティが争い、2025年9月に和解した件です。

あの争いで、シティの主張が通った論点が1つありました。今回はそこを掘ります。

株主ローンとは

オーナーが、自分の持つクラブにお金を貸すことです。出資(返さなくていい)ではなく、貸付(返す義務がある)として処理します。

なぜ貸付にするのか。理由はいくつかありますが、財務上の扱いが違うのが大きな点です。そして——ここが問題になったのですが——その金利は、オーナーが自由に決められます

無利子でも構いません。市場で借りれば年5%の利息がかかる£300mを、オーナーが0%で貸す。年£15m相当の利息負担が、消えます。

2024年に何が判断されたか

マンチェスター・シティがAPTルールを争った裁判で、独立審判所は次の判断を示しました。

  • 株主からの低金利ローンも、APTルールの対象に含めるべきである
  • ルールを厳格化した改正の一部は、競争法に違反する

プレミアリーグ自身が、この判断を公式声明で認めています——審判所は株主ローンをAPTルールの対象から外すべきではないと判断した、と(Premier League公式声明・2024年10月7日)。

同じ声明で、リーグはこうも書いています。審判所はAPT制度そのものの必要性を支持し、マンチェスター・シティの主張の大半を退けた。そして、APTルールがなければPSRが機能するとは考えにくい、と。

つまり「シティが勝った」という報じられ方をした一件ですが、リーグ側の公式の理解は正反対です。ここは押さえておく価値があります。

なぜ株主ローンが最初から除外されていたのか

意外に思えるかもしれませんが、除外を決めたのはクラブ自身でした。透明な投資を促したいという理由で、19クラブが除外に賛成しています。そこにはマンチェスター・シティも含まれていましたPremier League公式声明)。

自分たちで除外に賛成したルールを、のちに自分たちで争った——という構図になります。

1つ目が本題です。「相場より安い金利で借りること」は、「相場より高い金額でスポンサー契約を結ぶこと」と、経済的には同じではないかという指摘でした。

どちらも、オーナーが自分の資金力を使ってクラブの負担を軽くしている。片方だけを規制するのは筋が通らない——この主張が認められたわけです。

誰に効いたのか

興味深いのは、この判断がシティ以外のクラブに大きく効いたことです。

株主ローンに依存していたのは、むしろ他の複数クラブでした。オーナーが赤字を無利子の貸付で埋め続ける、という形は珍しくありません。

つまりシティは、自分に不利なルールを争った結果、他のクラブにも規制が及ぶ形に持ち込んだことになります。「自分だけが縛られるのはおかしい」という主張が通った、と言い換えてもいい。

そして2025年9月8日の和解で、シティは現行のAPTルールが有効かつ拘束力を持つことを受け入れました。ルールは残り、精度が上がって決着しています。

なぜこれが重要か

前に「オーナーの金では、使える上限は増えない」と書きました。

2026/27から始まるSCRの式では、こうです。

スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%

オーナーからの資金注入は、分母(調整後収益)に入りません。£500m入れても、使える上限は1ペニーも増えない。

しかし株主ローンには、別の効き方があります。金利負担が減れば、その分だけ費用が減る。SCRの分子はスカッドコスト(給与・償却費・代理人手数料)に限られるため直接には効きませんが、PSRの損失計算や、クラブ全体の資金繰りには確実に効きます

そして何より、赤字を無利子で埋め続けられるなら、クラブは実質的に破綻しません。前に「サッカークラブは潰れないから価値が高い」と書きましたが、その「潰れなさ」の一部は、オーナーの財布によって支えられています。

独立規制機関はどう見るか

前に書いた独立サッカー規制機関(IFR)は、免許の条件としてクラブの財務健全性を審査します。

オーナーの貸付に依存した経営は、オーナーが撤退した瞬間に崩れます。無利子の借金は、返済義務が消えたわけではありません。オーナーが変われば、新しい所有者が回収に動くこともあり得ます。

誰の金で回っているのかは、規制する側が最も知りたい情報の一つです。IFRが金融当局(FCA)と情報共有の覚書を結んだ背景には、こうした資金の実態を把握する狙いもあると考えられます。

見るときのポイント

クラブの決算や買収の報道では、この3点を探してみてください。

  • 赤字は何で埋められているか(増資か、オーナーからの貸付か、銀行借入か)
  • 貸付なら、金利は市場並みか
  • オーナーが替わったとき、その貸付はどうなるか

「オーナーが金を出しているから大丈夫」という説明は、その金が出資なのか貸付なのかで、意味がまったく変わります


出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。法的な助言を目的とするものではありません。

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