サッカークラブの決算の見方 — 補強の背景を読む5つの数字
〜決算書で見るべきは、たった5つの数字〜5つクラブの決算は、収益・人件費・償却費・売却益・税引前損益をつなげると、補強の背景を読みやすくなります。
最初に会社名、連結範囲、対象期間をそろえます。この5項目に加えて現金・未払移籍金・借入も見なければ、現在使える予算までは分かりません。
1. 見るべき5つ
1. 収入(Revenue)
財務を見る出発点です。ただし決算のRevenueと、SCRの調整後収益は同じではありません。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
ここでの85%は国内SCRのグリーン基準です。分母は規則上の調整後の値で、国内のシーズン中の判定では事前合意した収益等を使います。欧州大会の対象クラブは、定義・期間の異なるUEFAの70%も別に確認します。費用枠の増加は、同額の移籍金を使えるという意味ではありません。公式説明。
Revenueの主な内訳は放映権、商業(スポンサー)、試合日です。選手売却益は通常これらと別に表示されます。SCRではサッカー関連収益に選手売却の純損益などを反映し、適用期間・調整方法も確認します。出典:プレミアリーグ公式。
見るポイントは、前年から増えたか。そして増えた理由です。CL出場による一時的な増加なのか、スポンサー契約の更新による構造的な増加なのか。CLによる収入は、翌年も出場するか、どこまで勝ち進むかで変わります。
2. 給与(Wages)
大きな固定費です。まず決算の人件費が、選手だけか、監督や事務職員なども含む全従業員かを確認します。
見るポイントは、給与÷収入の推移です。ただし全従業員の給与比率は、選手・ヘッドコーチの給与に償却費等を加えるSCRとは異なります。70%を超えたことだけで違反や選手売却の必要性は判断できません。
3. 選手の償却費(Amortisation)
過去の移籍金が、今年の費用として姿を現したものです。
見るポイントは、前年からの増減とその内訳。新規獲得のほか、獲得時期、償却の完了、売却、減損、契約変更の影響も確認します。将来の費用は選手を売る場合だけでなく、償却が完了した場合にも減ります。
4. 選手の売却益(Profit on player sales)
ここが最も重要かもしれません。
選手売却益が黒字を支えているクラブでは、翌年も同規模の利益を得られるかが論点になります。ただし売却以外にも、収入の増加や費用の削減などで損益は変わります。
見るポイントは、売却益を除いた場合の損益です。税引前損益から売却益を引いた値には利息なども残るため、これをそのまま「営業損益」と呼ぶのは不正確です。営業損益は決算の表示・定義を確認してください。
5. 税引前損益(Pre-tax profit/loss)
法人税を計上する前の利益・損失です。税引後損益、営業損益、現金の増減とは区別します。
ただし、この数字だけを見ても意味が薄いことは、ここまでの4つで分かるはずです。会計上の赤字と、財務ルール上の調整後損失は一致しません。 適用年度と認められる調整項目を確認する必要があります。
2. 5つをつなげて読む
具体的な読み方を、順番に示します。
手順1:給与÷収入を計算する
対象範囲と前年からの変化を確認します。比率だけで「今夏は売る側」とは決められません。
手順2:売却益を損益から引く
赤字になる場合は売却益への依存度を確認します。一時的な費用や将来の収入、費用削減、資金繰りも併せて見ます。
手順3:償却費の増減を見る
新規獲得、償却完了、売却、契約変更など、増減の理由を注記から確認します。過去の補強費が何年残るかは合計額だけでは分かりません。
手順4:収入の増加要因を確認する
CL出場やカップ戦の勝ち上がりによる増収は、翌年も続くとは限りません。給与などの継続費用を、どの収入見通しで賄うかを確認します。
手順5:期末日を確認する
多くは6月30日。この日を挟んで、選手売却の意味が変わります。
3. 実例:この5つで何が言えたか
チェルシーの2024/25年度を、この枠組みで整理します。収入・税引前損失・選手売却益はクラブ公式、給与・償却費と前年比較はSwiss Rambleの第三者分析に基づきます。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 収入 | £490.9m |
| 給与 | £359m(前年£338m) |
| 償却費 | £212m(前年£190m) |
| 選手売却益 | £58m(前年£152m、£94m減) |
| 税引前損失 | £262.4m |
給与÷収入は約73%という計算になります。ただし全従業員の給与を使った比率で、公式SCRではありません。売却益の減少は損失を拡大させる要因ですが、他の収益・費用の変化も確認します。
この5行は財務上の論点を探す入口です。 現在の補強余力や売却の必要性を判断するには、翌年度の取引、選手・監督に限った費用、規則上の収益、現金と支払予定などが必要です。
4. 読むときに確認したいこと
数字は、そのクラブの過去の判断の記録です。同時に、今後の選択肢を考える手がかりでもあります。
移籍の噂が出たとき、「なぜこのクラブがこの選手を売るのか」と思ったら、決算書のこの5行を見てください。財務上の理由を探しつつ、戦術、契約期間、本人の希望など、決算に載らない理由も分けて考えてください。
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出典
- Deloitte「Annual Review of Football Finance: Premier League Clubs」
- Chelsea FC「Financial results for 2024-25」
- The Swiss Ramble「Chelsea Finances 2024/25」
- Premier League「New Premier League financial system explained」
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。投資に関する助言を目的とするものではありません。
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