移籍金の分割払いのしくみ — 「£80mで合意」は一度に払われない

〜「£80mで合意」は、その日に振り込まれない〜£80m

移籍金は一括で支払われません。数年に分けた分割払いが普通で、そこに出来高と売却時分配条項が乗ります。だから「移籍金£80m」という数字だけでは、そのクラブが何を払ったのか分かりません。

サッカー財務移籍

「£80mで合意」というニュースを見たとき、多くの人はその額が振り込まれたと受け取ります。

実際には、そうなっていないことがほとんどです。

前に「移籍金は契約年数で割って費用にする(償却)」と書きました。あれは帳簿の話でした。今回は現金の話です。この2つは別々に動きます。

201年目202年目203年目204年目
£80mの移籍金を4年に分けて払う場合の各年の支払い(£m)

分割払いが標準

大型の移籍では、移籍金を数年に分けて支払うのが一般的です。£80mなら、3年から4年に分けて年£20m前後ずつ、といった形になります。

理由はクラブ側にあります。その年に£80mの現金を用意できるクラブは多くありません。 分割にすれば、放映権料が毎年入ってくるのに合わせて払える。

ここで、前に書いた話と組み合わせると混乱しやすい点が出てきます。

期間
現金の支払い契約で決めた分割回数(例:4年)
帳簿上の費用(償却)契約年数で割る(最長5年)

この2つは一致しません。 現金は3年で払い終わっているのに、帳簿では5年目まで費用が乗り続ける、ということが普通に起きます。逆もあります。

帳簿と財布は、別々のカレンダーで動いているわけです。

出来高(アドオン)

報道される金額には、条件付きの部分が含まれていることがよくあります。

前に書いたモイセス・カイセドの例では、移籍金£115mのうち保証分は£100m、残り£15mは出来高でした。出場試合数、得点数、クラブのタイトル獲得、代表への招集——こうした条件を満たしたときにだけ発生します。

つまり「£115m」は上限であって、実際にいくら払うかは数年後にならないと確定しません。会計上も、支払いの可能性が高まった時点で計上する扱いになります。

売却時分配条項(セルオン)

もう一つ、よく出てくるのがセルオン条項です。

「この選手を将来ほかのクラブに売却した場合、その金額の◯%を元のクラブに支払う」という取り決め。売り手のクラブが、安く売る代わりに将来の値上がり益の一部を確保するための仕組みです。

だから、あるクラブが選手を£60mで売っても、手元に£60m残るとは限りません。数年前の移籍で結んだセルオン条項によって、その一部が別のクラブに流れます。

なぜこれが重要か

2026/27シーズンから始まるSCRの式を思い出してください。

スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%

分子に入るのは償却費であって、現金の支払額ではありません。分母に入るのは売却益であって、受け取った現金ではありません。

つまりSCRは、財布ではなく帳簿だけを見ています

ここに、いまのサッカー財務の危うさがあります。帳簿の比率を守っていても、現金が尽きればクラブは止まります。給与は毎月現金で払う必要があり、分割払いの残債も期日に来ます。

前に書いた独立規制機関(IFR)が免許の条件として財務の健全性を見るのは、帳簿だけでは見えない部分を監視するためでもあります。

見るときのポイント

移籍のニュースを読むときは、こう補ってください。

  • 報じられる金額は上限かもしれない(保証分と出来高の内訳を探す)
  • 支払いは数年に分割されている可能性が高い
  • 売却額の一部は、セルオン条項で他クラブに流れることがある
  • そして移籍金は代理人手数料を含まない(前に書いたとおり、20クラブで年£460m)

「£80mで獲得」という6文字の裏には、少なくとも4つの別々の金額が隠れています。


出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。個別の契約条件は公表されないことが多く、本記事は一般的な仕組みの説明です。

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