サッカーの会計年度が6月30日で切れる意味 — 1日で年度が変わる取引
〜6月30日という、もう一つの締切〜No.24サッカーの会計年度が6月30日で切れる意味。毎年6月末になると、不自然なタイミングで若手が売られます。移籍市場はまだ開いたばかりなのに。理由はサッカーではなく会計にあります。決算期末という締切の話。
毎年6月の最終週になると、妙なことが起きます。
移籍市場は開いたばかりで、まだ誰も慌てる時期ではありません。それなのに、複数のクラブが同時に、期限に追われるように若手を売る。しかも6月30日を過ぎると、その動きがぴたりと止まります。
理由はサッカーの側にはありません。会計の側にあります。
決算期末
多くのイングランドのクラブは、6月30日を決算期末としています。7月1日から翌年6月30日までが1つの会計年度です。
シーズンが5月に終わり、次のシーズンが8月に始まる。その間に区切りを置くのは、事業年度としては自然な設計です。
しかしこの設計は、1つの締切を生みます。6月30日までに成立した取引は今年度、7月1日以降は来年度。
なぜ数日の差が命取りになるのか
前に書いたPSR(収益性・持続可能性規則)を思い出してください。3年間の累計損失に上限を置くルールでした。
3年の窓は、毎年ずれていきます。ある年度の赤字が窓に入っている間は、それを打ち消す利益が必要になる。その年度のうちに選手を売って利益を作れるかどうかが、判定を分けます。
選手を売れば、売却益が出ます。前に書いたとおり、アカデミー出身の選手は簿価ゼロなので、売値がまるごと利益になります。
つまり——
6月30日までにアカデミー出身の若手を£20mで売れば、その年度に£20mの利益が立つ。
7月1日に売れば、同じ£20mは来年度の利益になる。
同じ取引が、1日違いでまったく別の意味を持ちます。
2つのクラブが取引する理由
ここで、しばしば批判される現象が起きます。苦しいクラブ同士が、互いの若手を買い合う。
A クラブがBの若手を£20mで買い、BがAの若手を£20mで買う。現金はほぼ相殺されます。しかし帳簿の上では、両方のクラブに£20mの売却益が立ちます。買った側は移籍金を5年で割って償却するので、初年度の費用は£4mだけ。
両者とも、その年度の数字が改善します。
この手法は「スワップ取引」などと呼ばれ、規制当局からも問題視されてきました。前に書いたAPTルールが公正市場価値を問題にするように、取引価格が実態に見合っているかが焦点になります。
SCRの時代にはどうなるか
2026/27シーズンから、判定基準はSCRに変わります。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
3年の累計ではなく、毎シーズンの比率を見る方式です。窓が短くなったぶん、締切の意味はむしろ強まります。
分母には選手の売却益が加算されるので、期末までに売れば分母が増える。分子からはその選手の給与と償却費が消える。分子と分母の両方に効くので、期末の売却は以前より強力な手段になりました。
したがって、6月末の駆け込みは、今後も続くと考えるのが自然です。
ファンにとっての意味
この構造は、ファンには残酷に映ります。
売られるのは、たいていアカデミーで育った、地元出身の若手です。財務的に最も効率がいいからです。愛着のある選手ほど、帳簿の上では都合がいい。
ただし売りすぎると、今度は登録枠で困ります(ホームグロウン制度)。
前に書いたとおり、「財務的に追い込まれたクラブほど、いちばん愛される選手を手放す誘因が強くなる」。6月末の数日間は、その誘因が最大になる時期です。
見るときのポイント
6月の最終週のニュースは、こう読んでみてください。
- 売られた選手はアカデミー出身か(簿価ゼロなら利益がまるごと立ちます)
- 取引相手のクラブも、同じ時期に何かを売っていないか
- 移籍金の額より、成立日が6月30日以前かどうか
サッカーの移籍市場には、8月末の締切のほかに、もう1つの締切があります。そちらのほうが、静かで、そして深刻です。
出典
- Premier League「New Premier League financial system explained」 https://www.premierleague.com/en/news/4467022/new-premier-league-financial-system-explained
- Brabners「Navigating the Premier League's profit and sustainability rules — new loopholes explained」 https://www.brabners.com/insights/sport/navigating-the-premier-leagues-profit-and-sustainability-rules-new-loopholes-explained
- Chelsea FC「Financial results for 2024-25」 https://www.chelseafc.com/en/news/article/financial-results-for-2024-25
- Farrer & Co「Premier League financial fair play rules reform explained」 https://www.farrer.co.uk/news-and-insights/premier-league-financial-fair-play-rules-reform-explained/
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。
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