ホームグロウン制度とは — 自前で育てた選手が帳簿で「無料の在庫」になる理由

〜自前の若手は、簿価ゼロの資産〜25人

ホームグロウン制度とは。25人枠のうち8人はホームグロウンでなければいけない。この規則は育成の話に見えて、実は財務の話でもあります。アカデミー出身選手が「財務の優等生」と呼ばれる理由を説明します。

サッカー財務育成

プレミアリーグのクラブが自前の若手を使いたがるのは、愛着や地元への義理からだけではありません。帳簿の上で、彼らが異常に有利な資産だからです。

この記事では、まず制度を説明し、そのあとで「なぜアカデミーが財務の切り札になるのか」を数字で追います。

20外から£100mで獲得0アカデミー出身
記事内の例:帳簿に乗る年あたりの償却費(£m)

まず制度から

プレミアリーグの登録枠は25人です。この25人のうち、ホームグロウンではない選手は最大17人まで。つまり残りの8人以上はホームグロウンでなければなりません

正確には、プレミアリーグの規則集(Handbook)A.1.238にこう書かれています——登録リストは最大25人で、そのうちホームグロウンでない選手は最大17人Premier League Handbook・規則原文PDF)。

ここは順番が大事です。規則は「8人以上をホームグロウンにせよ」とは書いていません。「ホームグロウンでない選手を17人までにせよ」と書いています。この違いは後で効いてきます。

ホームグロウン選手(Home Grown Player)の定義は、意外と誤解されています。規則A.1.128の条文を訳すと、こうです。

国籍・年齢にかかわらず、21歳の誕生日を迎える前(またはその選手が21歳になるシーズンの終了前)に、イングランドサッカー協会またはウェールズサッカー協会に加盟するクラブに、通算3シーズンまたは36か月にわたって登録されていた選手。

国籍は関係ありません。 ここが一番の勘違いポイントです。外国籍でも、若いうちにイングランドのクラブに3年いればホームグロウンになります。逆に、イングランド人でも18歳で海外に渡って戻ってきたらホームグロウンではありません。

ちなみに規則は「シーズン」の数え方まで定めています。夏の移籍市場が閉まった日に始まり、そのシーズン最後のリーグ戦の日に終わる(A.1.128)。3シーズンというのは、この単位で3回ぶんです。

そしてもう一つ。21歳以下の選手は、そもそも25人枠に入りません。 規則U.1にこうあります——リーグ戦に出られるのは、登録リストに名前がある選手、または21歳以下の選手。「または」です。

21歳以下かどうかは、シーズンが始まる年の1月1日時点で判定します(A.1.273)。2025/26シーズンなら2004年1月1日以降に生まれた選手が該当し、何人登録しても構いません。

25人を埋めなくてもいい

ここで最初の話に戻ります。規則は「ホームグロウンを8人揃えろ」ではなく「そうでない選手を17人まで」と決めています。

つまりホームグロウンが5人しかいないクラブは、登録を22人にすればいい。ルール違反にはなりません。実際にそうしているクラブがあります。

代償は選手層です。25人枠を使い切れないまま、リーグ戦・カップ戦・欧州大会を戦うことになります。前に書いたとおり、消化試合数の多いクラブほど、この差は効いてきます。

抜け道は塞がれています

「21歳以下は枠外なら、若い外国籍選手を大量に集めればいいのでは」——そう考えたくなります。

規則V.44が、そこを塞いでいます。1シーズンに新しく登録できる「21歳以下・ホームグロウンでない選手」は、6人まで

規則内容
A.1.238登録は最大25人、うち非ホームグロウンは最大17人
A.1.128ホームグロウンの定義(21歳前に英・威のクラブで3シーズン)
A.1.27321歳以下の判定はシーズン開始年の1月1日時点
U.121歳以下の選手は登録リスト外でも出場できる
V.44新規登録の「21歳以下・非ホームグロウン」は年6人まで

出典: Premier League Handbook(規則原文PDF)

つまり制度全体が、イングランドで育った選手を持たないクラブほど不利になるように組まれています。

ここからが財務の話

制度の説明はここまでです。本題はここから。

移籍金を払って獲得した選手は、契約年数で割って毎年費用にしていきます(償却)。£100mの選手を5年契約で獲れば、年£20mが5年間、費用としてのしかかる。

アカデミー出身の選手には、この償却がありません。 移籍金を払っていないので、帳簿に乗せる金額がゼロだからです。育成にかかった費用は、その年の経費として処理済み。選手そのものは、資産としては存在しないことになっています。

これが何を意味するか。

簿価ゼロの選手を£40mで売ると、£40mまるごとが利益になります。

移籍金£50mで獲った選手を£40mで売れば、簿価との差で損失が出ることもあります。しかしアカデミー出身なら、売値がそのまま利益。引き算する元手がないからです。

新しいルールでは、さらに効きます

2026/27シーズンから、プレミアリーグの判定基準はSCR(スカッドコスト比率)に変わります。

スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%

分子のスカッドコストは、給与+移籍金の償却費(減損を含む)+代理人手数料。分母の調整後収益には、選手の売却益が加算されます

アカデミー出身選手を売ると、この式に3方向から効きます。

  1. その選手の償却費はもともとゼロなので、分子を押し上げていない
  2. 売却益がまるごと分母に加わる
  3. アカデミーの運営費は、そもそもスカッドコストに含まれない

「一番効率のいい資産」と言われるのは、こういう理由です。

PSR(旧ルール)でも、アカデミーや女子チーム、インフラ、地域貢献にかかる費用は損失計算から差し引けました。育成への投資は罰されない設計が、以前から一貫して続いているわけです。

だから何が起きるか

見ていて胸が痛くなる現象が起きます。クラブが、自前で育てた選手を優先的に売る

外から買った選手は、簿価が残っているので売っても利益が小さい。むしろ損が出ることもある。一方でアカデミー出身の若手は、売れば売っただけ帳簿が改善します。財務的に追い込まれたクラブほど、いちばん愛される選手を手放す誘因が強くなるという構造です。

毎年6月末の決算期末が近づくと若手の移籍が増えるのは、偶然ではありません。

見るときのポイント

補強のニュースを見たら、3つだけ確認してみてください。

  • その選手はアカデミー出身か、買ってきた選手か
  • 売却なら、決算期末(多くのクラブは6月30日)の前か後か
  • 買った選手なら、契約年数(償却は最長5年)

この3点で、そのクラブが何を狙っているかは、かなり見えます。


出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。

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