プレミアリーグのホームグロウン制度 — 登録枠とアカデミー選手の売却益

〜登録枠と売却益は分けて読む〜No.09
サッカー財務育成

ホームグロウンは国籍ではなく育成歴による登録上の区分です。自クラブのアカデミー出身者と同じ意味ではありません。

登録枠の価値と売却益の話を分けて説明します。簿価が小さい選手は利益を出しやすいものの、売却費用や他クラブへの分配を差し引く必要があります。

20外から£100mで獲得0アカデミー出身
記事内の例:帳簿に乗る年あたりの償却費(£m)

1. まず制度から

プレミアリーグの登録枠は25人です。この25人のうち、ホームグロウンではない選手は最大17人まで。25人を使い切るには、少なくとも8人のホームグロウンが必要です。25人未満の登録も可能です。

正確には、プレミアリーグの規則集(Handbook)A.1.238にこう書かれています——登録リストは最大25人で、そのうちホームグロウンでない選手は最大17人(Premier League Handbook・規則原文PDF)。

ここは順番が大事です。規則は「8人以上をホームグロウンにせよ」とは書いていません。「ホームグロウンでない選手を17人までにせよ」と書いています。この違いは後で効いてきます。

ホームグロウン選手(Home Grown Player)の定義は、意外と誤解されています。規則A.1.128の条文を訳すと、こうです。

国籍・年齢にかかわらず、21歳の誕生日を迎える前(またはその選手が21歳になるシーズンの終了前)に、イングランドサッカー協会またはウェールズサッカー協会に加盟するクラブに、通算3シーズンまたは36か月にわたって登録されていた選手。

国籍は関係ありません。 ここが一番の勘違いポイントです。外国籍でも、若いうちにイングランドのクラブに3年いればホームグロウンになります。イングランド国籍でも所定の育成歴を満たさなければ該当しません。一方、18歳で海外へ移ったという事実だけでは、既に要件を満たしていたかは判断できません。

ちなみに規則は「シーズン」の数え方まで定めています。夏の移籍市場が閉まった日に始まり、そのシーズン最後のリーグ戦の日に終わる(A.1.128)。3シーズンというのは、この単位で3回ぶんです。

そしてもう一つ。21歳以下の選手は、そもそも25人枠に入りません。 規則U.1にこうあります——リーグ戦に出られるのは、登録リストに名前がある選手、または21歳以下の選手。「または」です。

21歳以下かどうかは、シーズンが始まる年の1月1日時点で判定します(A.1.273)。2025/26シーズンなら2004年1月1日以降に生まれた選手が該当し、何人登録しても構いません。

25人を埋めなくてもいい

ここで最初の話に戻ります。規則は「ホームグロウンを8人揃えろ」ではなく「そうでない選手を17人まで」と決めています。

つまりホームグロウンが5人しかいないクラブは、登録を22人にすればいい。ルール違反にはなりません。実際にそうしているクラブがあります。

代償は選手層です。25人枠を使い切れないまま、リーグ戦・カップ戦・欧州大会を戦うことになります。これも同じ話で、消化試合数の多いクラブほど、この差は効いてきます。

抜け道は塞がれています

「21歳以下は枠外なら、若い外国籍選手を大量に集めればいいのでは」——そう考えたくなります。

冒頭で触れた条文が、ここで出てきます。規則V.44が、そこを塞いでいました。

2026/27規則V.44では、新たなU21非ホームグロウン選手の登録とGBE(統括団体の推薦)取得に、1シーズン6人の上限があります。 リーグ戦へ出場せず国外へローンする場合の扱い等もあるため、すべての若手登録を単純に6人で打ち切る説明は不正確です。2026/27規則集V.44。上で挙げたA・Uの条番号はリンク先の2024/25版です。

日本語でホームグロウン制度を説明した記事をいくつか読みましたが、この条文に触れているものは見つかりませんでした。

規則内容
A.1.238登録は最大25人、うち非ホームグロウンは最大17人
A.1.128ホームグロウンの定義(21歳前に英・威のクラブで3シーズン)
A.1.27321歳以下の判定はシーズン開始年の1月1日時点
U.121歳以下の選手は登録リスト外でも出場できる
V.44対象となる新規U21非ホームグロウンの登録・GBE取得は年6人まで。特則あり

出典: Premier League Handbook(規則原文PDF)

つまり制度全体が、イングランドで育った選手を持たないクラブほど不利になるように組まれています。

2. ここからが財務の話

制度の説明はここまでです。本題はここから。

移籍金を払って獲得した選手は、契約年数で割って毎年費用にしていきます(償却)。£100mの選手を5年契約で獲れば、年£20mが5年間、費用としてのしかかる。

アカデミー出身の選手には、この償却がありません。 移籍金を払っていないので、帳簿に乗せる金額がゼロだからです。育成にかかった費用は、その年の経費として処理済み。選手そのものは、資産としては存在しないことになっています。

これが何を意味するか。

簿価ゼロの選手を£40mで売り、売却関連費用や他クラブへの分配がゼロという例なら、売却益は£40mです。

移籍金£50mで獲った選手を£40mで売れば、簿価との差で損失が出ることもあります。しかしアカデミー出身なら、売値がそのまま利益。引き算する元手がないからです。

3. 新しいルールでは、さらに効きます

2026/27シーズンから、プレミアリーグの判定基準はSCR(スカッドコスト比率)に変わります。

スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%

ここでの85%は国内SCRのグリーン基準です。分母は規則上の調整後の値で、国内のシーズン中の判定では事前合意した収益等を使います。欧州大会の対象クラブは、定義・期間の異なるUEFAの70%も別に確認します。費用枠の増加は、同額の移籍金を使えるという意味ではありません。公式説明。

分子のスカッドコストは、給与+移籍金の償却費(減損を含む)+代理人手数料。分母の調整後収益には、選手の売却益が加算されます。

アカデミー出身選手を売ると、この式に3方向から効きます。

  1. その選手の償却費はもともとゼロなので、分子を押し上げていない
  2. 売却益が規定の集計期間で年換算されて分母へ反映される
  3. アカデミーの運営費は、そもそもスカッドコストに含まれない

「一番効率のいい資産」と言われるのは、こういう理由です。

PSR(旧ルール)でも、アカデミーや女子チーム、インフラ、地域貢献にかかる費用は損失計算から差し引けました。育成への投資は罰されない設計が、以前から一貫して続いているわけです。

4. だから何が起きるか

見ていて胸が痛くなる現象が起きます。クラブが、自前で育てた選手を優先的に売る。

外から買った選手は、簿価が残っているので売っても利益が小さい。むしろ損が出ることもある。一方でアカデミー出身の若手は、売れば売っただけ帳簿が改善します。財務的に追い込まれたクラブほど、いちばん愛される選手を手放す誘因が強くなるという構造です。

毎年6月末の決算期末が近づくと若手の移籍が増えるのは、偶然ではありません。


5. 読むときに確認したいこと

補強のニュースを見たら、3つだけ確認してみてください。

  • その選手はアカデミー出身か、買ってきた選手か
  • 売却なら、決算期末(多くのクラブは6月30日)の前か後か
  • 買った選手なら、契約年数(償却は最長5年)

この3点で、そのクラブが何を狙っているかは、かなり見えます。

売却益とSCRの区別:会計上の売却益は売却額から残存簿価・売却費用等を引いて求めます。国内SCRでは規定の対象期間の純損益を3で割って扱い、UEFAも原則36か月を12か月相当に換算します。給与・償却の削減は比較期間に応じて別に計算します。国内規則 Appendix 2、UEFA第93条。

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出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。

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