サッカークラブの価値はどう決まるか — 赤字なのに£4.6bnになる理由

〜赤字なのに、値段だけが上がり続ける〜£4.6bn

サッカークラブの価値はどう決まるか。リバプールの評価額は£4.6bn。多くのクラブは赤字なのに、値段は毎年上がり続けています。利益が出ない会社が高値で売買される理由を、投資の側から説明します。

サッカー財務クラブ経営

前回、プレミアリーグ20クラブの合計税引前損失が£948mだったと書きました。ほとんどのクラブが赤字です。

にもかかわらず、クラブの値段は毎年上がっています

普通の会社なら、赤字が続けば価値は下がります。サッカークラブでは逆のことが起きている。この記事では、その理由を考えます。

いくらの値段がついているか

Forbesの2026年5月時点の評価では、こうなっています。

クラブ評価額
リバプール£4.6bn(約$6.2bn)
アーセナル£3.2〜3.5bn(約$4.3〜4.7bn)

リバプールは、世界で4番目。上にいるのはレアル・マドリード、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドの3クラブだけです。

そして世界全体の傾向として、最も価値のある30クラブの平均は$2.9bn。前年の$2.4bnから21%増という記録的な上昇でした。

赤字が拡大している業界で、資産価値だけが2割上がっている。奇妙に見えます。

なぜ赤字でも高いのか

理由は5つあります。

1. 売上の倍率で値段がつくから

未上場企業の売買では、利益ではなく売上の何倍かで値段を決めることがよくあります。プレミアリーグのクラブは、他リーグの同規模クラブと比べてこの倍率が高い(プレミアム)ことが、取引データから確認されています。

利益が出ていなくても、£300mを安定して売り上げる装置であることに値段がつく。

2. 収入が読めるから

放映権契約は複数年で決まっています。中央配分は最低でも年£100m以上。来年いくら入るかが、ほぼ確定している事業は、金融の世界では非常に高く評価されます。

3. 潰れないから

普通の会社は、赤字が続けば消えます。プレミアリーグのクラブは、降格してもパラシュートペイメントで支えられ、身売り先も見つかる。160年続いているクラブが、来年なくなるとは誰も思っていない。この「消えなさ」自体が価値です。

4. 数が絶対に増えないから

プレミアリーグの席は20。どれだけ買い手が現れても、増産されません。世界中の富豪が20席を取り合う構造なので、値段は上がる方向にしか動きません。

5. お金以外の価値があるから

これが最も大きいかもしれません。クラブの所有には、利益では測れないものが付いてきます。世界的な知名度、政治的な影響力、国のイメージ戦略。利益を目的にしていない買い手が参加している市場では、価格は利益と切り離されます。

買った人はどう回収するのか

赤字の会社を高値で買って、どう元を取るのか。答えは配当ではなく、売却益です。

£2bnで買って、10年後に£4bnで売る。その間の赤字は自分で埋める。保有期間中は損をし続け、出口で回収するという設計です。

不動産の考え方に近い。家賃収入が経費を下回っていても、地価が上がれば投資として成立する。サッカークラブの売買は、いまこの論理で動いています。

それが競技に何をもたらすか

この構造には、副作用があります。

出口で回収する前提なら、保有中の赤字は「投資」として正当化されます。選手に使い、赤字を出し、順位を上げ、クラブの価値を高めて売る。オーナーにとっては合理的です。

しかしその赤字が、リーグ全体の相場を押し上げます。1クラブが給与を上げれば、他も追随せざるを得ない。PSRやSCRのような規制が必要になった背景には、この「出口を見ている資本」の存在があります。

規制する側は、クラブを投資対象ではなく事業体として振る舞わせようとしている。買う側は、投資対象として見ている。この綱引きが、いまのサッカー財務の底流です。

見るときのポイント

クラブの買収報道を読むときは、こう見てください。

  • 買収額は年間収入の何倍か(プレミアなら数倍が目安)
  • 買い手は投資ファンドか、事業会社か、国家系か(回収の考え方がまったく違います)
  • スタジアムを持っているか(不動産としての価値が別に乗ります)

「£2bnで買収」という見出しの裏には、たいてい10年後に売る計画があります。


出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。投資に関する助言を目的とするものではありません。

記事一覧にもどる