スタジアムの建設費は誰が払うのか — £1bnを借りて建てる建物の帳簿
〜£1bnの裏に、20年分の返済表がある〜£1bnスタジアムの建設資金は、借入、オーナーの拠出、前売りやスポンサーなどの組み合わせで調達します。それぞれ返済義務と収益計上の扱いが違います。
建設費の大きさに加え、工期、金利、完成前後の資金計画を確認します。建物が完成することと、投資を回収できることは別です。
1. クラブの年間収入では足りない
まず規模感を確認します。別記事で書いたとおり、プレミアリーグの中央配分は最下位でも年£109m。上位クラブでも£174.9m程度です。
£1bnは、クラブの年間収入をはるかに超えます。 貯めてから建てる、という方法は現実的ではありません。
だから、3つの財布を組み合わせることになります。
2. 財布1:借入
最も一般的な方法です。銀行や機関投資家から借り、数十年かけて返します。
住宅ローンと同じ発想です。返済の原資は、そのスタジアムが生む収入。これも同じ話で、トッテナムは新スタジアムで試合日収入が倍増しました。増えた分で返す、という組み立てです。
ここで重要なのが、財務ルール上の扱いです。
| 扱い | |
|---|---|
| 減価償却(帳簿上の費用) | PSRでは控除できる/SCRの分子に入らない |
| 借入の返済と利息(現金) | 実際に出ていく |
ルール上は罰されないが、現金は確実に減る。 前に何度か書いたとおり、帳簿と財布は別のカレンダーで動きます。
なお、建設のための借入にかかる利息がPSR・SCRの計算でどう扱われるかについては、公表資料から確定的な記述を確認できませんでした。ここは断定を避けます。
3. 財布2:オーナーの拠出
オーナーが資金を出す方法です。ただしくり返しになりますが、出資と貸付では意味がまったく違います。
- 出資(株式を引き受ける):返済義務なし。クラブの負担は増えない
- 貸付(株主ローン):返済義務あり。金利をどう設定するかが問題になる
2024年、独立審判所は株主からの低金利ローンもAPTルールの対象に含めるべきと判断しました。オーナーが無利子で貸せば、市場で借りるより負担が軽くなる——それは実質的な補助ではないか、という論点です。
つまり、オーナーの財布に頼ったスタジアム建設は、いまや規制の視野に入っています。
4. 財布3:前売りとスポンサー
建物ができる前に、将来の収入を先に受け取る方法です。
- シーズンチケットや長期の観戦権の前売り
- 命名権の前払い(別記事で書いたとおり、命名権そのものは年£4〜6m規模。トッテナムは年£25mを目指しています)
- ホスピタリティ(企業向けの上級席)の長期契約
近年のスタジアムが、一般席よりも企業向けの高価格帯の席を手厚く作るのは、この財布を厚くするためです。単価の高い席を先に売れば、建設資金の一部を賄えます。
以前に取り上げたチケット値上げの話とも、ここでつながります。値上げは目先の収入だけでなく、建設費の返済計画そのものに組み込まれていることがあります。
5. 最大のリスクは「工期中の降格」
3つの財布を組んでも、消えないリスクが1つあります。建設中に降格することです。
- 収入は£100m規模で落ちる(くり返しになりますが、パラシュートは半分以下)
- 建設費の返済はそのまま続く
- 工事は途中で止められない
しかも、降格すれば戦力を維持するのが難しくなり、再昇格も遠のきます。「昇格クラブの罠」の逆側にある、より深い落とし穴です。
だから、スタジアム計画を進めるクラブは同時に補強もします。矛盾しているように見えますが、建設期間中に降格しないことが計画の前提だからです。別記事で書いたとおり、ルールの上では選手とスタジアムは別の財布。片方を削っても、もう片方は楽になりません。
6. 完成後に何が変わるか
SCRの式で整理します。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
ここでの85%は国内SCRのグリーン基準です。分母は規則上の調整後の値で、国内のシーズン中の判定では事前合意した収益等を使います。欧州大会の対象クラブは、定義・期間の異なるUEFAの70%も別に確認します。費用枠の増加は、同額の移籍金を使えるという意味ではありません。公式説明。
| 効果 | |
|---|---|
| 分子 | 変化なし(スタジアムは入らない) |
| 分母 | 試合日収入+命名権が増える |
分母だけが増える。 すでに触れたとおり、上限規制のある世界でこれは決定的な性質です。
10年から20年かけて返す借金を負う代わりに、その後の数十年、毎年の上限が上がる。スタジアム建設は、そういう長期の賭けです。
7. 読むときに確認したいこと
新スタジアムの発表を読むときは、この4点を探してください。
- 資金の出どころ(借入か、オーナーか、前売りか。組み合わせが普通です)
- オーナーの資金なら、出資か貸付か
- 命名権は決まっているか(未定なら、収入計画に穴があります)
- 建設期間中、そのクラブは降格圏から十分離れているか
美しい完成予想図の裏には、20年分の返済表があります。
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出典
- Premier League「What's new for 2025/26: Premier League's 62nd stadium」
- Morgan Sports Law「An APT Legal Challenge: Manchester City's victory over the Premier League's rules」
- SportsPro「Arsenal's 'UK£70m' extension with Emirates」
- Brabners「Navigating the Premier League's profit and sustainability rules」
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。個別の資金調達の条件は公表されないことが多く、本記事は一般的な仕組みの説明を含みます。
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