APTルールとは — プレミアリーグがオーナー関連企業の取引を縛る規制

〜オーナーの会社は、相場より高く払えない〜No.11

APTルールとは。収入を増やせば使える上限が上がる。ならばオーナーの関連会社に高額のスポンサー契約を結ばせればいい——プレミアリーグがその抜け道を塞ぐために作った規則を、条文から読み解きます。

サッカー財務ルール

サッカーの財務ルールは、突き詰めると「収入に見合った額しか使えない」という一点です。PSRでも、2026/27から始まるSCRでも、根っこは同じ。

ということは、収入さえ増やせば、使える額も増えます。

ここで、ある発想が生まれます。オーナーが大富豪、あるいは政府系ファンドだったとしたら。オーナーの関連会社に、クラブと高額のスポンサー契約を結ばせればいいのではないか。

それは寄付ではなく「収入」です。帳簿の上では、正々堂々とした商業収入になります。

この抜け道を塞ぐために作られたのが、APTルール(Associated Party Transaction Rules/関連当事者取引規則)です。

ルールの中身は一行

クラブと、その所有者に関係する会社との取引は、公正市場価値(Fair Market Value)で行われなければならない。

これだけです。オーナーの関連会社がスポンサーになること自体は禁止されていません。禁じられているのは、相場より高い金額を払うこと

「その胸スポンサー契約、本当に相場どおり£40mですか。無関係の会社なら£15mしか出さないのでは?」——リーグがそう問い、相場からかけ離れていれば、帳簿に計上できる金額を相場まで引き下げる。それがこのルールの働き方です。

このルールはプレミアリーグの規則集(Handbook)に、E.56〜E.82として実際に書かれています。「関連当事者」の定義もA.1.25にあり、対象は3種類です。

対象となる取引規則上の定義
クラブ と 関連当事者同じ企業グループ・共通の所有者や役員・同じ相手から重要な影響を受ける先
クラブに登録された選手 と 関連当事者
監督・上級役員 と 関連当事者

出典: Premier League Handbook(規則原文PDF)Premier League「Summary of Associated Party Transaction and Fair Market Value Rules」(公式)

もう1つ、あまり知られていない点があります。関連会社でない相手との取引も、金額が大きければ届け出が必要です。基準は£1m、またはクラブの年間売上の5%のうち低いほう。判定にあたってリーグは、£100,000を超える商業契約を集めた独自のデータバンクと突き合わせます(Premier League公式)。

相場を判断する材料を、リーグ自身が持っているということです。

いつ、なぜできたのか

APTルールが導入されたのは、2021年12月にサウジアラビアの公的投資基金(PIF)がニューカッスル・ユナイテッドを買収した直後です。

国家規模の資金力を持つ所有者が現れたとき、既存のルールでは競争の公正さを保てない。そう判断した他クラブが、急いで作った防波堤でした。特定のクラブを念頭に置いて作られたルールである、という点は押さえておく価値があります。ここが、のちの法廷闘争の火種になります。

マンチェスター・シティとの争い

マンチェスター・シティは、このルールそのものを法的に争いました。長い経緯を、要点だけ追います。

2024年:独立審判所が判断を示します。シティの主張は部分的に認められました。

  • 株主からの低金利ローンも、APTルールの対象に含めるべきである
  • ルールを厳格化した改正の一部は、競争法に違反する

ここで注目すべきは1点目です。オーナーが自分のクラブに無利子または極めて低金利でお金を貸す行為。市場で借りれば利息を払うところを、オーナーが肩代わりしている。これは実質的な補助ではないのか——という論点で、シティ側の指摘が通りました。この判断は、株主ローンに依存していた他の複数クラブにも波及しました。

2025年9月8日:プレミアリーグとマンチェスター・シティが和解し、係争は終結します。和解にあたり、シティは現行のAPTルールが有効かつ拘束力を持つことを受け入れました

つまり、ルールは残りました。ただし、シティの指摘を受けて中身は修正されています。攻めた側が「ルールの精度を上げた」という決着でした。

なぜこの話が地味に重要なのか

移籍のニュースは移籍金の額で語られます。しかしSCRの時代には、分母(収入)をどう作るかのほうが、長期的には効いてきます。

スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%

分子を削るには選手を売るしかありませんが、分母を増やす道は複数あります。放映権、試合日収入、商業収入、選手売却益。このうち商業収入だけは、オーナーの意思で操作できる余地がありました。APTルールは、そこに蓋をしています。

逆に言えば、このルールがどれだけ厳格に運用されるかで、リーグの勢力図が変わります。緩めれば資金力のある所有者が有利になり、締めれば既存の強豪が守られる。どちらに転んでも誰かが得をするので、争いが絶えないわけです。

見るときのポイント

新しいスポンサー契約が発表されたら、こう見てみてください。

  • スポンサーはオーナーと関係のある会社か(航空会社、通信、観光局などは要注意)
  • 金額は同規模のクラブの契約と比べて自然か
  • クラブが「記録的な商業収入」と発表したとき、その伸びはどこから来たのか

「£100mで獲得」の裏側には、たいていその£100mを正当化するための収入づくりがあります。


出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。法的な助言を目的とするものではありません。

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