プレミアリーグの練習場くらべ — ピッチ16.5面と3面を、同じ土俵で比べてはいけない
〜ピッチ数は数え方が違う〜No.46プレミアリーグ各クラブの練習施設を、クラブ公式の発表だけで比べました。ピッチ数は数え方が違うため単純比較できません。そのうえで分かる投資額の差と、練習場に命名権がつき始めた動きを整理します。
練習場は、スタジアムより外から見えません。それでもクラブの支出としては大きく、選手の獲得や引き止めに直結する設備です。
プレミアリーグの各クラブが、そこにいくら使い、何を持っているのか。
プレミアリーグ20クラブの公式発表だけを使って、分かるところまで並べました。
そして結論から言うと、ピッチ数のランキングは作れませんでした。 理由から説明します。
なぜランキングにできないのか
クラブ公式の発表を並べると、こうなります。
| クラブ | 施設名 | ピッチ数(公式発表) |
|---|---|---|
| マンチェスター・シティ | City Football Academy | 16.5面 |
| トッテナム | Hotspur Way | 芝15面(+人工芝1.5面) |
| ブライトン | American Express Elite Football Performance Centre | 11面 |
| リヴァプール | AXA Training Centre | 3面 |
一見すると、シティはリヴァプールの5倍以上に見えます。
しかし数えているものが違います。
| クラブ | 「◯面」が指しているもの |
|---|---|
| シティ | 80エーカーの敷地全体。うち3分の2は育成年代用 |
| トッテナム | 敷地全体の芝。うちトップチーム専用は4面 |
| ブライトン | フルサイズとハーフサイズの合計 |
| リヴァプール | トップチーム施設のフルサイズ3面 |
トップチーム専用で見ると、トッテナムは4面、リヴァプールは3面。5倍どころか、ほぼ同じです。
出典: Manchester City、Tottenham Hotspur、Brighton & Hove Albion、Liverpool FC
練習場のピッチ数には、統一された数え方がありません。 スタジアムの収容人数と違って、当局が認可する数字でもない。だから並べても意味のある順位になりません。
前にスタジアムの設備を比べたときは、SGSAという当局の認可リストがありました。練習場には、それに当たるものが存在しません。
では、何なら比べられるか
投資額です。金額はクラブが公表することがあり、しかも定義がぶれません。
| クラブ | 内容 | 金額 | 時期 |
|---|---|---|---|
| マンチェスター・ユナイテッド | カリントンの全面改修 | £50m | 2025年完了 |
| 同上 | 女子トップチーム+男子アカデミー棟 | £10m | 2024年 |
| 同上 | 3年間の合計 | £60m超 | — |
| ブライトン | 練習施設の建設費 | 約£20m | 2014年開場 |
出典: Manchester United、Brighton & Hove Albion
マンチェスター・ユナイテッドの改修は、建築家ノーマン・フォスターの事務所が手がけ、予算内・期限内で2025/26シーズン開幕の1週間以上前に完了したとクラブが発表しています。
前に書いたとおり、練習場への投資はSCRの分子に入りません(→スタジアムの建設費は、SCRの分子に入らない)。給与や移籍金の償却費と違い、いくら使っても比率を悪化させない。
£60mを選手に使えば比率が悪化し、練習場に使えば悪化しない。 ルールがこうなっている以上、資金が施設に向かうのは当然の帰結です。
新しい動き:練習場に名前が売られ始めた
ここが今回いちばん面白い発見です。
スタジアムの命名権は前に記事にしました。それが練習場にも広がっています。
| クラブ | 施設名 | 命名企業 |
|---|---|---|
| アーセナル | Sobha Realty Training Centre | ソブハ・リアルティ(ドバイの不動産) |
| リヴァプール | AXA Training Centre | アクサ(保険) |
| ブライトン | American Express Elite Football Performance Centre | アメリカン・エキスプレス |
| マンチェスター・シティ | City Football Academy(エティハド・キャンパス内) | エティハド航空 |
アーセナルは公式発表で、これをクラブ史上初の練習場命名権パートナーと説明しています(Arsenal)。旧称は「ロンドン・コルニー」でした。
なぜ売れるのか。理屈はスタジアムの命名権と同じです。
- 命名権収入は商業収入になり、SCRの分母に入る
- 分母が増えれば、使える上限が上がる
- しかも練習場は、これまで売っていなかった在庫
前に書いたとおり、クラブが自力で伸ばせるのは商業収入と試合日収入だけです。売れるものを探した結果、練習場の名前という新しい商品が出てきた——そう読めます。
なおアーセナルの場合、この契約には施設そのものの改善も含まれており、女子トップチーム専用棟の新設、更衣室・食堂の改修、サウナとスチームの追加などが行われたとクラブが発表しています。
建て替えが動いているクラブ
公式発表が確認できたものを挙げます。
| クラブ | 状況 |
|---|---|
| ニューカッスル | 既存の35エーカーの敷地で建て替えを発表。現在の建物を解体し、20mプールを備えた新棟へ |
| ボーンマス | オーナー交代にともない、新しい練習施設の建設に着手すると発表 |
| アストン・ヴィラ | 2021年5月、ボディモア・ヒースにハイ・パフォーマンス・センターを開設 |
出典: Newcastle United、AFC Bournemouth、Aston Villa
分からなかったこと
正直に書きます。20クラブ全部は揃いませんでした。
| クラブ数 | |
|---|---|
| 公式発表で施設の情報が確認できた | 9 |
| 確認できなかった | 11 |
理由は単純で、多くのクラブが練習場の詳細を公表していないからです。ピッチ数も、建設費も、改修年も、公式サイトに載っていないクラブがあります。
このサイトは出典を示せない数字を載せない方針なので、推測では埋めません。確認できたら追記します。
「公表していない」ということ自体、ひとつの情報です。スタジアムは見えるので隠せませんが、練習場は隠せます。
見るときのポイント
- 練習場のピッチ数は比較できない。敷地全体か、トップチーム専用かで数字が変わる
- 比べるなら投資額。定義がぶれない
- 練習場への投資はSCRの分子に入らない。だから資金が向かいやすい
- 練習場の命名権という新しい収入源が生まれている。分母を押し上げる手として効く
- 多くのクラブはそもそも公表していない
「最新鋭の練習場」という言葉を見たら、何面あるかではなく、いくら使ったかを探してください。 そちらのほうが比べられます。
関連記事
出典
- Manchester City「City Football Academy opens」(クラブ公式) https://www.mancity.com/news/club-news/club-news/2014/december/city-football-academy-opens-announcement
- Tottenham Hotspur「Hotspur Way」(クラブ公式) https://www.tottenhamhotspur.com/the-club/hotspur-way
- Liverpool FC「Reds celebrate opening of new AXA Training Centre」(クラブ公式) https://www.liverpoolfc.com/news/axa-training-centre/416143-reds-celebrate-opening-of-new-axa-training-centre
- Manchester United「Statement: Man Utd completes transformation of Carrington」(クラブ公式) https://www.manutd.com/en/news/statement-man-utd-completes-transformation-of-carrington
- Brighton & Hove Albion「American Express Elite Football Performance Centre」(クラブ公式) https://www.brightonandhovealbion.com/club/stadiums/training-centre
- Arsenal「London Colney becomes Sobha Realty Training Centre」(クラブ公式) https://www.arsenal.com/news/london-colney-becomes-sobha-realty-training-centre
- Newcastle United「United Announce New Training Ground Plans」(クラブ公式) https://www.nufc.co.uk/news/archive/united-announce-new-training-ground-plans/
- AFC Bournemouth「AFC Bournemouth acquired by Bill Foley-led partnership」(クラブ公式) https://www.afcb.co.uk/news/club-news/afc-bournemouth-acquired-by-bill-foley-led-partnership/
- Aston Villa「The Duke of Cambridge opens new High Performance Centre」(クラブ公式) https://www.avfc.co.uk/news/2021/may/The-Duke-of-Cambridge-opens-new-High-Performance-Centre/
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。掲載した数値は各クラブが公表したもので、集計の定義はクラブによって異なります。
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