チェルシーの決算の数字が3つある理由 — どの会社を見ているか
〜どの箱の決算を見ているか〜3つチェルシーの損失額が資料で異なる場合、まず会社名・連結範囲・対象期間を確認します。単年度の損失と累積損失も別の数字です。
本文の金額を足し合わせたり、同じ会社の成績として比べたりしないことが重要です。どの財務諸表を読んでいるかを表で整理します。
1. 3つの数字
| 数字 | どの会社か |
|---|---|
| £262.4m | クラブ本体(Chelsea FC Holdings)の税引前損失 |
| £700.8m | 親会社グループ(BlueCo)全体の税引前損失 |
| £1,500m超 | さらに上の持株会社(22HoldCo)の累積損失(2025年6月30日時点) |
出典: Chelsea FC公式「Financial results for 2024/25」(£262.4m)、Sky Sports(グループ・累積)
「プレミアリーグ史上最大の損失」と報じられる£262.4mは、いちばん内側の箱の数字です。
この数字はクラブ自身が公式サイトで発表しています。同じ発表に、内訳も載っています。
| 項目 | 2024/25 | 区分 |
|---|---|---|
| 収益 | £490.9m(過去2番目の高さ) | 【公式】 |
| 税引前損失 | £262.4m(前期は£128.4mの利益) | 【公式】 |
| 選手売却益 | £57.9m | 【公式】 |
| 試合日収入 | £86.8m | 【公式】 |
前期が£128.4mの「利益」だったのは、子会社を売却したからです。実際の稼ぎが良かったわけではありません。ここも箱の話につながります。
実は、箱はもう1つある
同じ日に、チェルシー女子(Chelsea Football Club Women Limited)が別会社として決算を出しています。
| 項目 | 2024/25 | 区分 |
|---|---|---|
| 収益 | £21.3m(前期から£9.8m増) | 【公式】 |
| 当期損失 | £17.1m | 【公式】 |
| 試合日収入 | £3.0m(過去最高) | 【公式】 |
女子チームを別会社にしたこと自体が、別記事で扱ったAPTルールと同じ「どの箱に入れるか」の話です。男子の£262.4mに、この£17.1mは入っていません。
2. なぜ箱が分かれているのか
クラブの上には、たいてい複数の会社が積み上がっています。
- いちばん内側: クラブそのもの。選手、スタジアム、試合の収入と費用
- その上: グループ会社。他クラブ、不動産、関連事業を含む
- さらに上: 持株会社。買収の借入や、オーナーの出資を抱える
チェルシーの場合、グループにはフランスのストラスブールも含まれます。だからグループの数字にはクラブ以外の損益が混ざります。
財務ルールの判定は、原則としていちばん内側の箱で行われます。 £262.4mが「リーグ史上最大」と呼ばれるのはそのためです。
3. グループの数字にしか出てこないもの
一方で、グループを見ないと分からないこともあります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| オーナーからの出資(3シーズン累計・無利子) | £1,100m |
| 借入による負債 | £225m |
| スカッドを揃えるのに使った累計 | £1,500m |
| 前オーナー時代に関する制裁金 | £50m超 |
£1,100mが無利子で入っている。オーナー貸付の話そのままです。市場で借りれば利息がかかるものを、オーナーが無利子で出している。この差額こそが規制の関心事です。
4. もう1つ、見落とされやすい数字
同じ資料に、こういう数字があります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 選手売却で得た額 | £300m |
| そのうち会計上の利益 | £31.8m |
£300m売って、利益は£31.8m。 1割程度です。
理由は前に書いたとおりです。売却益は「売値 − 簿価」で計算されます。高い移籍金で買った選手を、償却が進む前に売っても、引き算する簿価が大きいので利益は小さい。
アカデミー出身の選手なら簿価はゼロなので、売値から売却費用等を引いた額が利益になります。同じ£300mでも、誰を売ったかで帳簿への効き方がまったく違う。
5. 記事を読むときの手順
決算のニュースを見たら、この順で確認してください。
- どの会社の数字か(クラブ本体か、グループか)
- 税引前か、税引後か
- どの期間か(1年か、累計か)
この3つが揃わないまま数字を比べると、同じクラブなのに話が噛み合わなくなります。
私自身、このブログを書くなかで£262.4mと別の数字が出てきて突き合わせに時間がかかりました。原因は箱の違いでした。
6. 読むときに確認したいこと
- 「史上最大の損失」はクラブ本体の数字。グループはもっと大きい
- オーナーの出資はグループ側に出る。無利子なら、実質的な補助
- 売却額と会計上の利益は別物。£300m売っても利益は£31.8m
決算は1つではありません。どの箱を開けたのかを、まず確かめてください。
売却益とSCRの区別:会計上の売却益は売却額から残存簿価・売却費用等を引いて求めます。国内SCRでは規定の対象期間の純損益を3で割って扱い、UEFAも原則36か月を12か月相当に換算します。給与・償却の削減は比較期間に応じて別に計算します。国内規則 Appendix 2、UEFA第93条。
関連記事
出典
- Chelsea Football Club「Financial results for 2024/25」(クラブ公式発表)
- Companies House「CHELSEA FC HOLDINGS LIMITED」提出書類一覧(英国の公式登記)
- Sky Sports「Chelsea finances: Blues announce biggest pre-tax loss of any club in Premier League history」
- Sports Illustrated「Four Worrying Takeaways From Chelsea's 2024–25 Financial Accounts」
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。決算の数値は集計する主体によって差が出ます。投資に関する助言を目的とするものではありません。
*