SCRの分子に入る人件費とは — チェルシーの管理部門スタッフを例に
〜対象外の人件費も経営には影響する〜No.57管理・商業部門の人件費は、選手やヘッドコーチを対象にするSCRの費用とは区別されます。ただし、対象外の費用もクラブの経営には影響します。
チェルシーの従業員数を紹介した報道と制度の説明を分けます。部門名と人数だけで、個々の報酬の規則上の処理まで確認したことにはなりません。
| 項目 | 人数 |
|---|---|
| 管理部門のスタッフ | 929人(プレミアリーグ最多) |
| そのうち、この年に増えた人数 | 156人 |
1. この人件費は、比率に入らない
ここが本題です。
2026/27から始まるSCRの式を確認します。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
ここでの85%は国内SCRのグリーン基準です。分母は規則上の調整後の値で、国内のシーズン中の判定では事前合意した収益等を使います。欧州大会の対象クラブは、定義・期間の異なるUEFAの70%も別に確認します。費用枠の増加は、同額の移籍金を使えるという意味ではありません。公式説明。
分子に入るものは、公式にこう定められています。
| 分子に入る | 分子に入らない |
|---|---|
| 選手の給与 | 事務・管理部門の人件費 |
| ヘッドコーチ(監督)の給与 | 商業部門の人件費 |
| 移籍金の償却費・減損 | アシスタントコーチ、その他のコーチ陣 |
| 代理人手数料 |
出典: Premier League
一般の管理・商業部門の人件費は対象外です。ただし、929人という人数区分だけで個々の職務・報酬の処理まで確認できるわけではありません。
つまりチェルシーは、管理部門を何人増やしてもSCRの比率は1ミリも悪化しません。
2. これは抜け道なのか
そう読みたくなりますが、少し慎重に見る必要があります。
管理部門の人件費はSCRには入りませんが、損益には入ります。人を増やせば費用は増え、赤字は膨らみます。実際にチェルシーの2024/25は税引前£262.4mの損失で、リーグ史上最大でした。
そしてもう1つ、SSR(持続可能性とシステム的耐性)は別の角度から見ています。
| テスト | 内容 |
|---|---|
| 運転資金テスト | 各暦月で£12.5m以上 |
| 流動性テスト | £85mのストレスを吸収できるか |
| 自己資本テスト | 負債÷調整後資産が90%→85%→80%以下 |
管理部門の人件費は、毎月現金で出ていきます。SCRには効かなくても、運転資金テストには効きます。
SCRで見えないものを、SSRが見る。 2つの仕組みが組み合わさっている理由がここにあります。
3. 役員報酬も増えている
同じ資料に、こうあります。
- 役員報酬は前年比80%増
- 取締役への報酬は60%増
929人の増員と合わせて読むと、クラブの組織そのものが大きくなっていることが分かります。
これも同じ話で、チェルシーはオーナーから3シーズンで£1.1bnの無利子出資を受けています。その金の一部が、ピッチ外の組織に入っている形です。
4. ルールが見ていないところ
新ルールの設計を、もう一度整理します。
SCRが見ているのは「ピッチに立つ人」のコストだけです。選手と監督。それ以外の人件費は、どれだけ膨らんでも比率に出ません。
これは意図された設計です。規制の目的は競争の公平であって、経営の効率ではないからです。929人を雇っても、それでピッチが強くなるわけではない。だから規制の対象外になっている。
ただし読む側としては、こう理解しておく必要があります。
SCRが85%以内でも、そのクラブの経営が健全とは限らない。
比率は「選手にかけすぎていないか」だけを見ています。クラブ全体が健全かどうかは、決算書を開かないと分かりません。
5. 読むときに確認したいこと
- SCRの分子は選手と監督だけ。事務・商業・コーチ陣は入らない
- 管理部門の人件費は損益とSSRには効く
- SCRが基準内でも、経営が健全とは限らない
- チェルシーは管理部門を1年で156人増やし、929人にした
新ルールのニュースを読むときは、「何が測られているか」と同じくらい、何が測られていないかを見てください。
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出典
- Sports Illustrated「Four Worrying Takeaways From Chelsea's 2024–25 Financial Accounts」
- Premier League「New Premier League financial system explained」
- Brabners「Out With PSR, In With SCR」
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。投資に関する助言を目的とするものではありません。
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