サッカーのスポンサー契約の種類 — 胸・袖・キット・命名権を整理する
〜権利の範囲と年額をそろえる〜No.58クラブのスポンサー契約は、胸・袖・キット・練習着・命名権など複数の権利に分かれます。複数の権利をまとめた契約もあります。
本記事の分類は比較のための整理です。同じ契約を別の枠にも足して二重計上せず、総額・年額・出来高を区別します。
1. ユニフォームに乗る4社
サッカーのユニフォームに乗るスポンサーは、大きく4つの種類に分かれます。それぞれ売り方も金額の桁も違うので、種類ごとに見ていきます。
| 場所 | 相場(年) | 例 |
|---|---|---|
| 胸 | £5m〜£60m | マンチェスター・U:Snapdragon £60m |
| 袖 | 平均£7.2m | マンチェスター・U:DXC Technology £20m |
| キットサプライヤー(メーカー) | £75m〜£100m | リヴァプール:アディダス £100m |
| 練習着 | 〜£20m | マンチェスター・U:Betway 最大£20m |
出典: The Sponsor、Yogonet、GiveMeSport
いちばん大きいのは胸ではありません。 リヴァプールの場合、胸のスタンダードチャータードよりも、キットサプライヤーのアディダス(年£100m)のほうが上です。
2. ユニフォームの外にも
さらに、ユニフォーム以外の枠があります。
くり返しになりますが、命名権を売っているのは20クラブ中8です。
地域パートナーとカテゴリー別パートナーを合わせると、上位クラブでは数十社にのぼります。マンチェスター・シティやリヴァプールは、公式サイトに専用のパートナー一覧ページを持っています。
3. 「年£60mの契約」の中身
ここで、別記事で扱った話につながります。
アーセナルとEmiratesの契約は、しばしば「年£60m超」と報じられます。しかしこれは、
- 胸スポンサー
- スタジアムの命名権
を合わせた金額です。命名権そのものは年£4〜6m規模にすぎません。
報じられる金額の多くは、複数の枠の合計です。 「命名権が年£60m」と読むと、桁を1つ間違えることになります。
4. SCRの分母から見ると
2026/27から始まる式です。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
ここでの85%は国内SCRのグリーン基準です。分母は規則上の調整後の値で、国内のシーズン中の判定では事前合意した収益等を使います。欧州大会の対象クラブは、定義・期間の異なるUEFAの70%も別に確認します。費用枠の増加は、同額の移籍金を使えるという意味ではありません。公式説明。
どの枠のスポンサー料も、すべて商業収入として分母に入ります。 胸も袖も練習着も命名権も、会計上の扱いは同じです。
前にアーセナルの記事で書いたとおり、SCRの分母のうちクラブが自力で伸ばせるのは商業収入だけです。放映権も順位も動かせず、試合日収入は箱の大きさで頭打ちになります。(→試合日収入)
だからクラブは、枠を細かく分けて売ろうとします。
| 売り方 | 効果 |
|---|---|
| 1社に全部まとめて売る | 手間は少ないが、総額は伸びにくい |
| 枠を分けて複数社に売る | 合計額を最大化できる |
袖、練習着、地域別、カテゴリー別。枠が増えるほど、分母は増えます。
5. 商業収入はどこまで伸びたか
リーグ全体の商業収入は、£58mから£2.4bnへ、およそ4,000%伸びたとされています(サッカー財務の研究者Kieran Maguire氏、Yogonet)。
これは長期の比較です。枠を細分化し、地域別に売り、カテゴリー別に売るという方法が積み上がった結果でもあります。
6. 袖スポンサーの相場
4種類のうち、賭博禁止のあとに一番動いたのが袖でした。ここだけ切り出して見ます。
移った先
| クラブ | 移った賭博ブランド | 場所 |
|---|---|---|
| アストン・ヴィラ | Betano | 袖 |
| エヴァートン | Stake.com | 袖 |
| ボーンマス | MrQ | 袖 |
| ボーンマス | SBK | 練習着 |
| マンチェスター・ユナイテッド | Betway | 練習着(年最大£20m) |
出典: Yogonet
マンチェスター・ユナイテッドの練習着契約は年最大£20mとされます。胸の£60m(Snapdragon)の3分の1にあたる金額が、練習着に付いている計算です。
袖の相場
袖スポンサーの適正価格は、平均で年£7.2mとされています(The Sponsor)。
そして重要な数字がこれです。
賭博ブランドは、市場平均より38%高く払う。
その結果、袖の市場全体が40%ほど膨らむと見られています。
平均£7.2mに38%を乗せると、年£9.9m前後(本サイトによる計算値)になります。
実際に上がった額
移動の効果は、すでに数字に出ています。
| クラブ | 変化 |
|---|---|
| アストン・ヴィラ | 袖の収入が£4mへ。前季の2倍 |
| エヴァートン | 前の袖スポンサーより年30%増 |
胸を失ったクラブが、袖で取り返している構図です。
先に見たとおり、リーグ全体の減収は年£80m規模と見られています。しかし袖と練習着で戻ってくる分があるので、実際の目減りはこれより小さくなる可能性があります。
SCRから見ると
2026/27から始まる式を確認します。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
胸だろうと袖だろうと練習着だろうと、スポンサー料はすべて商業収入として分母に入ります。会計上は区別されません。
つまりクラブから見れば、同じ金額なら胸でも袖でも同じことです。だから胸で失った分を袖で埋めれば、比率への影響は打ち消せます。
前にアーセナルの記事で書いたとおり、SCRの分母のうちクラブが自力で伸ばせるのは商業収入だけです。袖はその数少ない手段の1つになります。
この禁止は何だったのか
整理すると、こうなります。
| 起きたこと | |
|---|---|
| 意図 | ユニフォームの胸から賭博広告をなくす |
| 実際 | 胸からは消えた |
| ただし | 袖・練習着・看板には残った |
| 金額 | 賭博は38%高く払うため、移った先の相場が上がった |
目立つ場所から消えたというのは事実です。テレビに映る時間も、ユニフォームを着る子どもの目に入る回数も、胸と袖では違います。
一方で、リーグに入る賭博マネーの総額が減ったかどうかは別の話です。ここは分けて考える必要があります。
7. 読むときに確認したいこと
- ユニフォームには胸・袖・メーカー・練習着の4層がある
- いちばん大きいのは胸とは限らない(リヴァプールはメーカーが年£100m)
- 報じられる金額は、複数の枠の合計であることが多い
- 会計上、どの枠も同じ商業収入。分母への効き方は同じ
- だからクラブは枠を細かく分けて売る
「スポンサー契約を結んだ」というニュースを見たら、それがどの枠なのかを確かめてください。胸なのか、袖なのか、それとも全部込みなのか。金額の意味が変わります。
関連記事
出典
- The Sponsor「Revealed: Premier League sleeve sponsorship values」
- Yogonet「Premier League gambling shirt ban leaves clubs reshaping sponsor deals」
- GiveMeSport「The Value of Every Premier League Club's Kit Manufacturer Deal」
- Premier League「New Premier League financial system explained」
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。契約額は報道された数値で、非公表のものも多くあります。投資に関する助言を目的とするものではありません。
- The Sponsor「Revealed: Premier League sleeve sponsorship values as gambling set to boost market by 40%」
- Sky Sports「Premier League clubs agree to withdraw gambling sponsorships on front of shirts」
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