ウェストハムが資金繰り不足を自ら予告した決算 — そして降格した
〜予告した夏の前に、降格した〜No.42ウェストハムの決算を読むポイントは、会計上の損失と将来の資金不足見通しを分けることです。赤字額だけで現金が尽きる時期は分かりません。
本文は2024/25決算に関する公表情報・報道を扱います。過去の見通しを現在の残高とせず、その後の資金調達や選手取引も確認します。
1. 決算と資金不足見通し
| 項目 | 2024/25 |
|---|---|
| 収益 | £228m(前年から£42m減) |
| 税引前損失 | £104.2m |
収益が£42m減っています。くり返しになりますが、収入の柱は放映権と欧州大会です。成績が落ちれば、翌年の分母が縮む。 その縮んだ分が、そのまま数字に出ています。
このブログで扱ってきた他のクラブと並べると、規模の違いがはっきりします。
| クラブ | 収益 |
|---|---|
| リヴァプール | £703m |
| アーセナル | £691m |
| マンチェスター・ユナイテッド | £666.5m |
| ウェストハム | £228m |
同じリーグにいて、3倍の差があります。
「赤字」と「資金が足りない」は別の話
ここが今日の本題です。
前に何度か書いたとおり、帳簿と財布は別々のカレンダーで動いています。
- 赤字は、費用が収益を上回った状態。減価償却や償却など、現金が出ていかない費用も含みます
- 資金繰りの不足は、実際に払う現金が足りない状態
赤字でも現金が回っていればクラブは動きます。逆に、帳簿が黒字でも現金が尽きれば止まります。給与は毎月、現金で払わなければなりません。
ウェストハムが書いたのは後者です。£104.2mの赤字より、この一文のほうが重い。
2. 資金調達と財務ルール
答えは決算書に書かれています。選手を売って収入を作る。
報じられているところでは、契約が4年残っている主力も対象になり得るとされています。契約年数に余裕があっても、資金が必要なら売る。
「契約残り1年は最後の売り時」とは、逆の話です。あちらは資産が消える前に売るという帳簿の論理でした。今回は現金が要るから売るという財布の論理です。
そして買い手はこの事情を知っています。別記事で扱った締切の記事のとおり、売らなければならないクラブは、買い叩かれます。
SCRから見るとどうなるか
2026/27シーズンから始まる式で確認します。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
ここでの85%は国内SCRのグリーン基準です。分母は規則上の調整後の値で、国内のシーズン中の判定では事前合意した収益等を使います。欧州大会の対象クラブは、定義・期間の異なるUEFAの70%も別に確認します。費用枠の増加は、同額の移籍金を使えるという意味ではありません。公式説明。
収益£228mという分母は、リーグでも小さい部類です。分子(給与+償却+代理人手数料)が同じでも、分母が小さいクラブほど比率は跳ね上がります。
選手を売れば、この式には3方向から効きます。
- その選手の給与が分子から消える
- 残りの償却費も分子から消える
- 売却益が分母に加わる
つまり、資金繰りのための売却は、比率の改善にもそのまま効きます。 クラブにとっては一石二鳥に見える。ただし戦力は落ち、順位が下がれば翌年の分母がさらに縮む——循環に入ります。
3. 他クラブとの比較とSSR
同じ時期に公表された数字を並べます。
| クラブ | 損益 | 特記 |
|---|---|---|
| リヴァプール | 税引後£8mの黒字 | 人件費£428mはマンチェスター・シティの£408mを上回る |
| アーセナル | £1.4mの損失 | 商業収入が19%増で£264.4m |
| マンチェスター・ユナイテッド | £33mの損失 | 総負債£1.29bn |
| ウェストハム | £104.2mの損失 | 2026年夏の資金繰り不足を予告 |
アーセナルの数字が示唆的です。商業収入が19%増。別記事で書いたとおり、SCRの分母を押し上げる手段のうち、クラブが自力で伸ばせるのは商業収入と試合日収入です。アーセナルはそこを伸ばし、損失を£1.4mまで圧縮しました。
もう1つ、アーセナルには注目すべき数字があります。移籍金の未払い残高(ネット)が£229mから£125mへ減少。分割払いの記事のとおり、移籍金は数年に分けて払います。その残債を減らしたということは、将来の現金の負担を軽くしたことを意味します。
ウェストハムとアーセナルは、正反対の方向を向いています。
リーグは資金繰りをどう見ているか
「資金が足りない」は、感覚の話ではありません。プレミアリーグには数字で判定するテストがあります(Premier League)。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 毎月の運転資金 | £12.5m以上を保つこと |
| 流動性ストレステスト | £85mの調整を加えて耐えられるか |
| 流動資産の計算 | スカッド市場価値の40%まで算入できる |
自己資本の比率にも、年を追って厳しくなる基準があります。
| シーズン | 求められる比率 |
|---|---|
| 2026/27 | 90% |
| 2027/28 | 85% |
| 2028/29以降 | 80% |
「スカッド市場価値の40%を流動資産に数えてよい」という一項は重要です。選手が、資金繰りの担保として制度に組み込まれているということだからです。売って現金を作れる前提が、ルールの側にあります。
4. 降格後に確認する条件
くり返しになりますが、降格すると中央配分が消え、代わりにパラシュートペイメントが入ります。しかし満額ではありません。
すでに£228mまで縮んでいた収益が、さらに落ちます。分母が縮む一方で、プレミアリーグ時代の給与契約は残ります。
決算書が「2026年夏に資金が足りない」と書いた時点では、降格はまだ起きていませんでした。起きた場合はさらに厳しくなる、という前提で書かれた予告だったことになります。
選手を売る必要は、予告の時点より強まっています。そして買い手はそれを知っています。
この記事の要点
決算のニュースで「資金繰り」という言葉を見たら、こう考えてください。
- 赤字の額より、現金が回っているかのほうが切実
- 資金が足りないクラブは、契約年数に関係なく売る
- そして買い手はそれを知っている
- 移籍金の未払い残高が減っていれば、将来の現金負担は軽くなっている
- 降格が重なると、予告された不足はさらに深くなる
決算書は過去の記録です。しかしときどき、未来の予告が混ざります。 そこだけは見逃さないでください。
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出典
- Sky Sports「Premier League club finances: What have we learned from Arsenal, Chelsea, Liverpool, Man Utd, Spurs and West Ham accounts?」
- Deloitte「Annual Review of Football Finance: Premier League Clubs」
- Premier League「New Premier League financial system explained」
- Premier League「EVERYTHING that's been decided in 2025/26 Premier League」(昇降格の公式確定情報)
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。決算の数値は集計する主体(クラブ単体か持株会社か)によって差が出ることがあります。投資に関する助言を目的とするものではありません。
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