バルコラ移籍の裏側 — £120mの報道を、PSGの帳簿から読み直す

〜PSGの帳簿では、£104mの利益〜£120m

リヴァプールとPSGが合意したバルコラの移籍。£120mという報道の中身は、保証£100mと出来高£20mに分かれます。PSGが3年前に£40mで買った選手を売ると、帳簿に何が起きるのかまで計算しました。

サッカー財務移籍

移籍のニュースは、たいてい買う側から書かれます。「リヴァプールが£120m」という具合に。

今回は逆から見ます。売るPSGの帳簿で、何が起きるのか。

計算してみたら、こちらのほうが面白い数字が出ました。

まず、報じられている中身

項目金額
総額£120m(約€140m)
うち保証£100m
うち出来高£20m
契約5年(2031年夏まで)

移籍金ランキングの記事でも書きましたが、報道の「£120m」は保証額ではありません。出来高が£20m含まれています。

出来高は、出場数やタイトルなどの条件を満たしたときにだけ払われます。条件を満たさなければ、£100mで終わる取引です。

同じ移籍が、媒体によって「£120m」とも「£100m」とも書かれる理由がここにあります。

PSGはいくらで買ったのか

ここが今回の肝です。

PSGは2023年夏、リヨンから約£40mでバルコラを獲得しました。

3年後に£120mで売ろうとしている。額面では3倍です。

ただし帳簿では、話がもう少し良くなります。

簿価を計算する

移籍金は契約年数で割って費用にします(償却)。PSGが5年契約で£40mを払ったとすると——

£40m ÷ 5年 = 年£8m

時点償却の累計簿価
2023年夏(獲得)£40m
2024年夏£8m£32m
2025年夏£16m£24m
2026年夏(現在)£24m£16m

いまPSGの帳簿に載っているバルコラの価値は、£16mです。

40獲得額16現在の簿価100売却額(保証)
PSGから見たバルコラ(£m)

売却益は£84m

売ったときの利益は「売値 − 簿価」で計算されます。

£100m(保証分) − £16m = £84m

出来高£20mがすべて入れば、£104mまで伸びます。

これが1年の利益として、まるごと計上されます。

買う側のリヴァプールが£120mを5年に分けて年£24mずつ費用にするのに対し、売る側のPSGは£84mを今年の利益に一括で乗せられる。前に触れた非対称が、そのまま出ています。

リヴァプール(買う)PSG(売る)
帳簿への影響年£24mの費用 × 5年今年£84mの利益
効き方じわじわ一撃

なぜPSGは売るのか

バルコラは23歳。普通に考えれば手放す年齢ではありません。

報じられている事情はこうです。

  • 契約は残り2年
  • 本人が延長を拒否している
  • 出場機会に不満を持っている

ここで契約が残り1年の選手の記事の話につながります。契約が減るほど、資産としての価値は下がる

残り2年のいまが、PSGにとってまだ高く売れる最後の局面です。残り1年になれば足元を見られ、満了すればボスマン判決により£0になります。

£84mの利益を確定させるか、来年ゼロになるリスクを取るか。 そう考えると、売る判断は自然に見えます。

リヴァプール側の事情

買う側も見ておきます。今夏のリヴァプールは、すでに大きく動いています。

選手移籍金
アレクサンデル・イサク€145m
フロリアン・ヴィルツ€125m
ユーゴ・エキティケ€95m
バルコラ£120m(€140m)

BIG6の移籍金ランキングで見たとおり、リヴァプールのクラブ記録上位5件のうち3件が25/26シーズンです。そこにバルコラが加わります。

支えているのは収益です。株式売却の記事で確認したとおり、2024/25の収益は£703mでリーグ最高でした。

そして重要なのは、£1,650mの株式売却では使える額が増えない一方で、収益が増えれば増えるという点です。バルコラを買えるのは、株を売ったからではありません。

交渉が長引いた理由も、数字で見える

この移籍は、まとまるまで時間がかかりました。報じられていた両者の希望額はこうです。

希望額
PSGの評価£145m
リヴァプールの上限£102.9m(€120m)
着地£120m(保証£100m+出来高£20m)

差は£42m。この溝を埋めたのが「出来高£20m」です。

保証を£100mに抑えれば、リヴァプールは希望額に近づく。出来高を積めば、PSGは「£120mで売った」と言える。両者の顔が立つ形になっています。

出来高が使われる理由が、この一件によく出ています。

まだ完了していません

念のため書いておきます。この移籍はまだ完了していません。

報道時点では、メディカルと書類手続きが残っている段階です。そしてクラブが正式発表しても、金額は公表されませんコナテの記事で確認したとおり、リヴァプールの公式発表に金額が書かれたことはありません。

この記事の数字はすべて【推計】です。報道にもとづくもので、クラブの公表値ではありません。簿価と売却益の計算も、5年契約という仮定を置いた筆者の試算です。

次にニュースを見たら

  • 報じられる総額と保証額は別。今回は£120mと£100m
  • 売る側の利益は「売値 − 簿価」。PSGは£84m
  • 買う側は年数で割る。リヴァプールは年£24m
  • 契約が残り2年というのは、売り手にとって最後の高値圏
  • 交渉が難航したら、出来高で差を埋める

「£120mで獲得」と読んだら、売った側がいくら儲けたかも考えてみてください。たいてい、そちらのほうが大きな数字です。


関連記事

出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。移籍金はクラブが公表していないため、掲載した金額はすべて報道にもとづく推計です。簿価および売却益は契約年数を5年と仮定した筆者の計算で、実際の会計処理とは異なります。

記事一覧にもどる