リヴァプールの株式売却で£1,650m — それでも使える額は£0しか増えない

〜£1,650m動いても、使える額は£0増えない〜£1,650m

リヴァプールの株式売却で£1,650m。8月14日、FSGがリヴァプールの株式約30%を£1,650mで売却しました。ベゾスもサベリンも入っています。それでも、このクラブが移籍市場で使える上限は1ポンドも増えません。理由は新ルールの分母にあります。

サッカー財務クラブ経営

2026年8月14日、リヴァプールのオーナーであるFSGが、クラブ株式の約30%を£1,650mで売却すると発表しました。

買い手は1892 Holdingsというコンソーシアム。アミット・バティア氏が率い、ジェフ・ベゾス(K5 Global経由)、エドゥアルド・サベリン(EE Capital経由)、鉄鋼王ラクシュミ・ミッタルが名を連ねています(ESPNSportico)。

30%で£1,650m。逆算すると、クラブ全体の評価額は£5.5bn超(約$7〜8bn)になります。

そして、ここからが本題です。

この£1,650mによって、リヴァプールが移籍市場で使える金額は、1ポンドも増えません。

上限 85%77.5%
リヴァプールの概算SCR比率。プレミアの上限85%の内側

なぜ増えないのか

理由は、株式を売って入ったお金がどこに入るかにあります。株式の売買は「クラブの外側」で起きているからです。

2026/27シーズンから、プレミアリーグの判定基準はSCR(スカッドコスト比率)です。

スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%

分母の「調整後収益」に入るのは、試合日収入・放映権収入・商業収入・選手売却益です。

オーナーからの資金は、ここに入りません。

前に「オーナーの金では、使える上限は増えない」と書いたとおりです。今回はその原則が、£1,650mという極端な金額で試された形になりました。

£1,650mでできることは、赤字を埋めること、借入を返すこと、スタジアムや練習場を建てることまで。選手の給与に回せる枠は、1ミリも広がりません。

リヴァプールの実際の数字

2024/25シーズンの決算から、確認できた数字を並べます。

項目金額
収益£703m(前年比+£89m、クラブ記録かつリーグ最高)
給与£427.7m(前年比+£51.2m、13.6%増)
選手の償却費£117m
減価償却£14m
営業損失£29m
EBITDA£103m(リーグ3位)

(出典:Matchday Finance「Liverpool Financial Results 2024-25」Greg Cordell「Liverpool FC: 2024/25 Financial Results」

給与が13.6%も増えたのは、リーグ優勝のボーナスとCLの勝ち上がりによるものとされています。勝つと給与が増える——前に書いた構造が、そのまま出ています。

概算してみる

分子=給与+償却費(代理人手数料は含みません。クラブ別の内訳が揃わないため)

£427.7m + £117m = £544.7m

分母=収益 £703m

£544.7m ÷ £703m = 約77.5%

代理人手数料を入れれば、この数字はさらに上がります。逆に、選手売却益を分母に加えれば下がります。あくまで感触をつかむための概算で、公式のSCR判定とは違います。

リヴァプールが本当に見ている数字は85%ではない

ここが今回の記事で最も重要な点です。

リヴァプールは今季チャンピオンズリーグに出場します。前に書いたとおり、欧州大会に出るクラブにはUEFAの基準も適用され、その上限は70%です。

上限
プレミアリーグ(SCR)85%
UEFA(スカッドコストルール)70%

厳しいほうが実質的な縛りになります。 概算77.5%という数字は、プレミアリーグの85%には収まっていても、UEFAの70%は超えています(ただし両者は算定の定義が異なるため、単純比較はできません)。

チェルシーがUEFAから制裁を受けた話を前に書きました。同じ物差しが、リヴァプールにも当てられています。

£80mの余裕を作るには、いくら必要か

では、使える枠を広げるにはどうすればいいのか。算数で出せます。

上限85%のもとで、使える額を£80m増やしたいとします。分母をいくら増やせばよいか。

£80m ÷ 0.85 = 約£94m

年£94mの新規収益が必要です。£1,650mの小切手ではなく、毎年£94m稼ぎ続ける仕組み

これが、前に書いたスタジアムキット契約命名権の話につながります。オーナーの財布ではなく、サッカーで稼いだ収入だけが分母を押し上げます

では、この£1,650mは何のためなのか

意味がないわけではありません。使い道は3つ考えられます。

  1. 借入の返済(利息負担が減る)
  2. スタジアムや練習場への投資(前に書いたとおり、これはSCRの分子に入りません)
  3. 赤字の穴埋め(営業損失£29mを埋める体力)

いずれも「今夏あと1人買える」という話にはなりません。効いてくるのは数年後です。

本当のニュースは、その先にあります

報道で見落とされがちな点があります。

1892 Holdingsは、今後12か月以内に持ち分を増やして筆頭株主になる選択権を持っています(評価額約$8bnで、FSGが手放す意思を示した場合)。

つまり今回の£1,650mは、買収の第一段階である可能性があります。FSGは現時点で過半数を保持し、日々の運営に変更はないとされていますが、1年以内に構図が変わる余地が残されている。

前に「クラブの値段は何で決まるのか」で、出口で回収する資本について書きました。今回の取引は、その典型例に見えます。段階的に入り、評価額を上げ、いずれ全体を取る。

見るときのポイント

大型の資本注入のニュースを読むときは、この3点を分けて考えてください。

  • その金はクラブに入るのか、株を売った側に入るのか(今回、発表文からは明示されていません。ただしどちらであってもSCRの上限は変わりません
  • 出資か、貸付か(前に書いた株主ローンの問題につながります)
  • 選択権や追加取得の条項が付いていないか(本当の狙いはそこにあることがあります)

「£1,650mの資本注入」という見出しを見て、今夏の補強を期待するのは間違いです。新しいルールの下では、オーナーの財布と移籍市場の予算は、完全に切り離されています。


関連記事

出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。掲載した比率は筆者による概算で、公式のSCR判定とは異なります。投資に関する助言を目的とするものではありません。

記事一覧にもどる