クラブ別のSCR比率を推計する — 主要クラブは85%ラインのどこにいるか
〜85%ラインを、すでに超えているクラブ〜85%クラブ別のSCR比率を推計する。2026/27から始まるSCRは「スカッドコスト÷収益≦85%」。では現時点で各クラブはどこにいるのか。公表済みの2024/25決算から概算してみると、クラブ間の差がはっきり見えてきます。
2026/27シーズンから、プレミアリーグの判定基準はSCR(スカッドコスト比率)になります。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
では、各クラブはいまどのあたりにいるのか。公表済みの2024/25シーズンの決算から、概算してみます。
先に、この記事の限界を書きます
以下の数字は推計です。公式のSCR判定とは違います。理由は5つあります。
- 2024/25シーズンにSCRは適用されていません(適用は2026/27から)
- 代理人手数料が含まれていません(クラブ別の内訳が揃わないため)
- 報道される給与総額には、選手・監督以外のスタッフ人件費も含まれます
- 公式のSCRでは、アカデミーと女子チームのコストは除外されます
- 分母の「調整後収益」の正確な定義は、クラブの決算からは再現できません
したがって、以下の数字は「順位を減点される・されない」を意味しません。 各クラブがどのあたりの水準にいるかの、感触をつかむためのものです。
概算してみる
分子=給与+選手の償却費(代理人手数料を除く)
分母=収入+選手売却益
| クラブ | 分子(給与+償却) | 収入 | 売却益 | 概算比率 |
|---|---|---|---|---|
| マンチェスター・シティ | £578m | £694m | £95m | 約73% |
| リバプール | £545m | £703m | 未確認 | 約78%(売却益を除いた場合) |
| チェルシー | £572m | £490.9m | £58m | 約104% |
チェルシーだけが、代理人手数料を入れる前の段階ですでに100%を超えています。前に書いたとおり、同クラブの代理人手数料は£65.1m(20クラブ中最多)。これを加えると、概算は116%前後まで上がります。
一方、マンチェスター・シティは約73%。同じリーグで、30ポイント以上の開きがあります。
各クラブの個別の数字
確認できた範囲で並べます。
収入(2024/25)
| クラブ | 収入 |
|---|---|
| リバプール | £703m(リーグ最高) |
| マンチェスター・シティ | £694m |
| アーセナル | £690m |
| チェルシー | £490.9m |
選手の償却費
| クラブ | 償却費 |
|---|---|
| チェルシー | £212m |
| マンチェスター・ユナイテッド | £196m |
| アーセナル | £170m超 |
| マンチェスター・シティ | £170m超 |
選手売却益
| クラブ | 売却益 |
|---|---|
| ウルヴァーハンプトン | £117m(リーグ最高) |
| マンチェスター・シティ | £95m |
| チェルシー | £58m |
ウルヴァーハンプトンが最高額というのが、この表の面白いところです。上位クラブではなく、中位のクラブが最も選手を売って稼いでいる。 前に書いたとおり、売却益は分母を押し上げるので、SCR上は有利に働きます。
なお、ある第三者の集計では、給与と償却を合わせた費用が収入を超えるクラブが14あったとされ、ウルヴァーハンプトンは146%と算出されています。ただしこの集計の定義は公式のSCRとは異なる可能性が高いため、参考値として扱ってください。
黒字のクラブは6つだけ
もう1つ、押さえておきたい数字があります。
2024/25シーズンに黒字だったのは、20クラブ中6クラブだけ。
さらに直近5シーズンを通して黒字を維持したのは、3クラブのみでした。
| クラブ | 5年間の累計利益 |
|---|---|
| マンチェスター・シティ | £191m |
| ブライトン | £123m |
| ブレントフォード | £2m |
ブライトンとブレントフォードが並んでいるのが象徴的です。前に書いたとおり、この2クラブは選手を育てて売るモデルで知られます。巨額の放映権収入を持つ強豪ではなく、売買がうまいクラブが、継続的に黒字を出しています。
前に書いた「アカデミー出身選手は簿価ゼロなので売値がまるごと利益になる」という話が、そのまま数字に出ています(ホームグロウン制度)。
この表から読めること
1. チェルシーの位置づけがはっきりする
前に「なぜチェルシーがSCR適用初年度に最も注目されるのか」と書きました。理由がこの表です。代理人手数料を入れる前ですら100%を超えている唯一のクラブ。
2. 収入の大きさだけでは決まらない
リバプール(£703m)とチェルシー(£490.9m)の収入差は£212m。しかし分子(給与+償却)はほぼ同水準(£545m vs £572m)です。稼ぎは違うのに、使っている額は同じ。 比率に差が出るのは当然です。
3. 売却益が効く
マンチェスター・シティの概算は、売却益£95mを分母に入れると73%、入れないと83%。10ポイント動きます。 前に何度か書いたとおり、選手を売ることは比率に対して非常に強く効きます。
しきい値と罰則(公式の定め)
プレミアリーグの公式説明には、しきい値と罰則がはっきり書かれています(Premier League)。
| 区分 | 比率 | 意味 |
|---|---|---|
| グリーン・スレッショルド | 85% | ここまでは問題なし |
| 上乗せできる幅 | +30% | 複数年にわたって使える |
| レッド・スレッショルド | 115% | これを超えると制裁 |
| UEFAの上限 | 70% | 欧州大会に出るクラブはこちらが実質の縛り |
制裁の重さも数式で決まります。
| 内容 | 定め |
|---|---|
| 基本の勝点減 | 6点 |
| 追加の勝点減 | レッドを超えた£6.5mごとに1点 |
| 罰金の例 | 4%の超過で£10,000(£250,000×4%) |
さらに、上限を守った翌年は枠が10%増える「ポジティブ・フィードバック・ループ」があり、最大+30%まで積み上がります。逆に超過した年は、超過分と同じ割合だけ枠が減ります。
2026/27に向けて何を見るか
- 各クラブの次の決算(2025/26シーズン分)が、実質的な「本番前の最終確認」になります
- 代理人手数料はFAが毎年公表します。分子の一部として、いまや重要な指標です
- 売却益なしの数字(営業損益)を見れば、そのクラブが構造的に苦しいかどうかが分かります
前に書いた「決算書の5つの数字」の記事と、この表を並べて見ていただくと、各クラブが今夏なぜあの動きをしたのかが、かなり読めるはずです。
この記事は、新しい決算が公表されるたびに更新していきます。
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出典
- Matchday Finance「Premier League Financial Results 2024/25」 https://www.matchdayfinance.com/post/premier-league-financial-results-2024-25
- BlueCityBrain「Premier League 2024/25 Finances」 https://bluecitybrain.substack.com/p/premier-league-202425-finances
- Chelsea FC「Financial results for 2024-25」 https://www.chelseafc.com/en/news/article/financial-results-for-2024-25
- The Swiss Ramble「Chelsea Finances 2024/25」 https://swissramble.substack.com/p/chelsea-finances-202425
- The FA「Football Agent fees and transactions for 2025-26 reporting periods published」 https://www.thefa.com/news/2026/apr/01/agent-fees-and-transactions
- Premier League「New Premier League financial system explained」 https://www.premierleague.com/en/news/4467022/new-premier-league-financial-system-explained
- Deloitte「Annual Review of Football Finance: Premier League Clubs」 https://www.deloitte.com/uk/en/services/consulting/research/annual-review-of-football-finance-premier-league-clubs.html
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。掲載した比率はすべて筆者による概算であり、プレミアリーグによる公式のSCR判定とは異なります。投資や賭けの判断材料として書かれたものではありません。
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