公開決算からSCR比率を考える — 参考計算で分かることと分からないこと

〜参考比率で違反は判断できない〜85%
サッカー財務ルールデータ

公開決算の人件費と償却費から作った比率は、正式なSCRではありません。国内85%やUEFA70%と直接比べて、違反や補強余力を判断することはできません。

この記事では参考比率の作り方と不足する情報を整理します。対象者、代理人費用、調整後収益、売却益の集計期間をそろえる必要があります。

1. 参考比率の前提と計算

以下の数字は推計です。公式のSCR判定とは違います。理由は5つあります。

  1. 2024/25シーズンにSCRは適用されていません(適用は2026/27から)
  2. 代理人手数料が含まれていません(クラブ別の内訳が揃わないため)
  3. 報道される給与総額には、選手・監督以外のスタッフ人件費も含まれます
  4. 公式のSCRでは、アカデミーと女子チームのコストは除外されます
  5. 分母の「調整後収益」の正確な定義は、クラブの決算からは再現できません

したがって、以下の数字は「順位を減点される・されない」を意味しません。 各クラブがどのあたりの水準にいるかの、感触をつかむためのものです。

概算してみる

分子=給与+選手の償却費(代理人手数料を除く)
この参考計算の分母=収入+単年度の選手売却益。この式は、規則の売却益の年換算を反映していません。以下は対象範囲の異なる参考計算であり、現在のSCR推計表ではありません。

クラブ費用集計収入売却益集計参考比率(SCRではない)
マンチェスター・シティ£578m£694m£95m約73%
リバプール£545m£703mこの参考計算では除外約78%(売却益を除いた場合)
チェルシー£572m£490.9m£58m約104%

チェルシーだけが、代理人手数料を入れる前の段階ですでに100%を超えています。別記事で書いたとおり、同クラブの代理人手数料は£65.1m(20クラブ中最多)。単純に加えた値は116%前後ですが、手数料の二重計上や期間のずれを除けていないため、精度が上がった公式SCRの推定値とは扱えません。

リバプールの2025年5月期の登録権売却益は、公表決算では£53.268mです。公表決算を確認した記事に記載しています。上の参考表は売却益の有無もそろっていないため、比率の差をクラブ間の余力の差とは読めません。

2. 公開決算から読める違い

確認できた範囲で並べます。

収入(2024/25)

クラブ収入
リバプール£703m(リーグ最高)
マンチェスター・シティ£694m
アーセナル£690m
チェルシー£490.9m

選手の償却費

クラブ償却費
チェルシー£212m
マンチェスター・ユナイテッド£196m
アーセナル£170m超
マンチェスター・シティ£170m超

選手売却益

クラブ売却益
ウルヴァーハンプトン£117m(リーグ最高)
マンチェスター・シティ£95m
チェルシー£58m

ウルヴァーハンプトンが最高額というのが、この表の面白いところです。上位クラブではなく、中位のクラブが最も選手を売って稼いでいる。 先に見たとおり、売却益は分母を押し上げるので、SCR上は有利に働きます。

なお、ある第三者の集計では、給与と償却を合わせた費用が収入を超えるクラブが14あったとされ、ウルヴァーハンプトンは146%と算出されています。ただしこの集計の定義は公式のSCRとは異なる可能性が高いため、参考値として扱ってください。

黒字のクラブは6つだけ

もう1つ、押さえておきたい数字があります。

2024/25シーズンに黒字だったのは、20クラブ中6クラブだけ。

さらに直近5シーズンを通して黒字を維持したのは、3クラブのみでした。

クラブ5年間の累計利益
マンチェスター・シティ£191m
ブライトン£123m
ブレントフォード£2m

ブライトンとブレントフォードが並んでいるのが象徴的です。先に見たとおり、この2クラブは選手を育てて売るモデルで知られます。巨額の放映権収入を持つ強豪ではなく、売買がうまいクラブが、継続的に黒字を出しています。

以前に取り上げた「アカデミー出身選手は簿価ゼロなので売値から売却費用等を引いた額が利益になる」という話が、そのまま数字に出ています(ホームグロウン制度)。

3. この表から判断できないこと

判断したいこと上の参考表では足りない情報
国内SCRの85%以内か対象者の費用、事前合意収益、売却益の対象期間
UEFAの70%以内かUEFA独自の費用・収益と12か月/36か月の対象期間
チェルシーと他クラブの余力差会社・期間・費用範囲をそろえた比較
今冬いくら補強できるか既存契約、新規給与、関連費用、現金支払計画

全従業員の給与を使うことや、代理人支払額を重ねて足すことによる誤差は、クラブごとに違います。同じ計算式を使っただけで公平なSCR比較になるわけではありません。

4. 公式基準と次に必要な情報

プレミアリーグの公式説明には、しきい値と罰則がはっきり書かれています(Premier League)。

区分比率意味
グリーン・スレッショルド85%国内SCRのグリーン基準内。他の規則は別途確認
上乗せできる幅初期値+30ポイント使用状況により翌季以降に増減
レッド・スレッショルド初期値115%許容枠により変動。超過は勝点減の対象
UEFAの上限70%欧州大会に出るクラブはこちらが実質の縛り

制裁の重さも数式で決まります。

内容定め
基本の勝点減6点
追加の勝点減レッドを超えた£6.5mごとに1点
罰金の例4%の超過で£10,000(£250,000×4%)

初期の許容枠は30パーセントポイントで、レッド基準は115%から始まります。決算確認時の85%超過分に応じて翌季の枠が減り、減った枠は条件を満たせば10ポイントずつ、最大30ポイントまで回復します。課徴金は2027/28の違反分からで、追加確認・軽減措置等の条件があります。2026/27からのレッド超過の勝点減とは区別します。出典:プレミアリーグ公式、詳しい制度解説。

85グリーン115レッド70UEFA
レッド115%は初期値。UEFAとは集計期間・規則の違いにも注意

2026/27に向けて何を見るか

  • 各クラブの次の決算(2025/26シーズン分)が、実質的な「本番前の最終確認」になります
  • 代理人手数料はFAが毎年公表します。分子の一部として、いまや重要な指標です
  • 売却益なしの数字(営業損益)を見れば、そのクラブが構造的に苦しいかどうかが分かります

以前に取り上げた「決算書の5つの数字」の記事と、この表を並べて見ていただくと、各クラブが今夏なぜあの動きをしたのかが、かなり読めるはずです。

この記事は、新しい決算が公表されるたびに更新していきます。


関連記事

出典

比率の読み方について:本文の過年度の概算比率は、対象範囲・期間が異なり、代理人手数料の二重計上も除けていない参考計算です。現在の公式SCR、違反、補強可能額は示しません。115%はレッド基準の初期値で、許容枠により変わります。制度と適用条件も確認してください。

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。掲載した比率はすべて筆者による概算であり、プレミアリーグによる公式のSCR判定とは異なります。投資や賭けの判断材料として書かれたものではありません。

*

記事一覧にもどる