サッカーの移籍金ランキング — £200mの1位を、帳簿では年£40mと読む

〜£200mは、年£40mとして効いてくる〜£200m

サッカーの移籍金ランキング上位20を並べたうえで、その金額が帳簿でどう扱われるかまで説明します。£200mは一度に払われず、契約年数で割って費用になります。ランキングを償却費に換算すると、順位の意味が変わります。

サッカー財務移籍

移籍金ランキングは、よく見かける記事です。

ただ、ほとんどが金額を並べて終わりになっています。このサイトでは、その先を書きます。その金額が、クラブの帳簿でどう扱われるのか。

先に結論を書きます。£200mの移籍は、その年に£200mの費用にはなりません。

まず、ランキング

選手移籍移籍金
1ネイマールバルセロナ → パリ・サンジェルマン2017£200m
2キリアン・ムバッペモナコ → パリ・サンジェルマン2017£165.7m
3アレクサンデル・イサクニューカッスル → リヴァプール2025£125m
4モーガン・ロジャーズアストン・ヴィラ → チェルシー2026£117m
5エリオット・アンダーソンノッティンガム・フォレスト → マンチェスター・シティ2026£116m
6ジョアン・フェリックスベンフィカ → アトレティコ・マドリード2019£113m
7ヤン・ディオマンデRBライプツィヒ → レアル・マドリード2026£107m
8エンソ・フェルナンデスベンフィカ → チェルシー2023£106.8m
9アントワーヌ・グリーズマンアトレティコ・マドリード → バルセロナ2019£107m
10フィリペ・コウチーニョリヴァプール → バルセロナ2018£105m
11ジャック・グリーリッシュアストン・ヴィラ → マンチェスター・シティ2021£100m
12フロリアン・ヴィルツバイヤー・レヴァークーゼン → リヴァプール2025£100m
13デクラン・ライスウェストハム → アーセナル2023£100m
14モイセス・カイセドブライトン → チェルシー2023£100m
15ロメル・ルカクインテル → チェルシー2021£97.5m
16サンドロ・トナーリニューカッスル → トッテナム2026£92.5m
17ウスマン・デンベレドルトムント → バルセロナ2017£96.8m
18ポール・ポグバユヴェントス → マンチェスター・ユナイテッド2016£89.3m
19ジュード・ベリンガムドルトムント → レアル・マドリード2023£88.5m
20エデン・アザールチェルシー → レアル・マドリード2019£89m

出典: List of most expensive association football transfers(Wikipedia)

この表の数字は、すべて【推計】です。 クラブが公表した金額ではありません。理由は次に説明します。

ネイマール200ムバッペ165.7イサク125ロジャーズ117アンダーソン116
移籍金の上位5件(£m)

なぜ「推計」なのか

クラブは移籍金を公表しません。

前にコナテの記事で確認したとおりです。リヴァプールの公式発表には「長期契約に合意した」としか書かれておらず、金額も契約年数も一切ありません。これが業界の標準です。

報じられる金額は、関係者からの取材にもとづくものです。だから媒体によって数字が違います。コナテの例では£30.5m〜£36mと幅がありました。

さらに厄介なのが出来高(アドオン)です。「£100m+出来高£20m」という契約なら、報道は£120mと書くこともあれば£100mと書くこともあります。同じ移籍が別の金額で記録されるわけです。

ランキングを見るときは、この前提を頭に置いてください。

ここからが本題:帳簿では、割り算になる

移籍金は資産の購入として扱われます。£200mの機械を買った工場と同じです。

機械は何年も使うので、買った年に全額を費用にはしません。使う年数で割って、少しずつ費用にします。これを償却といいます。

サッカーでは「使う年数」=契約年数です。

ネイマールの場合

£200m、5年契約とすると——

£200m ÷ 5年 = 年£40m

年度償却費年度末の簿価
1年目£40m£160m
2年目£40m£120m
3年目£40m£80m
4年目£40m£40m
5年目£40m£0

帳簿に乗るのは、年£40mです。

200報道される額40帳簿に乗る額(年)
£200mの移籍が、1年あたりいくらの費用になるか(£m)

プレミアリーグの11件を、年額に直す

上位20のうち11件がプレミアリーグ入りです。5年契約と仮定して、年あたりの費用に直します。

選手移籍先移籍金年あたりの償却費
アレクサンデル・イサクリヴァプール2025£125m£25.0m
モーガン・ロジャーズチェルシー2026£117m£23.4m
エリオット・アンダーソンマンチェスター・シティ2026£116m£23.2m
エンソ・フェルナンデスチェルシー2023£106.8m£21.4m
ジャック・グリーリッシュマンチェスター・シティ2021£100m£20.0m
フロリアン・ヴィルツリヴァプール2025£100m£20.0m
デクラン・ライスアーセナル2023£100m£20.0m
モイセス・カイセドチェルシー2023£100m£20.0m
ロメル・ルカクチェルシー2021£97.5m£19.5m
サンドロ・トナーリトッテナム2026£92.5m£18.5m
ポール・ポグバマンチェスター・ユナイテッド2016£89.3m£17.9m

【計算】5年契約と仮定した概算です。実際の契約年数は公表されていません。

£125mのイサクでも、年£25m。 給与を別に足す必要はありますが、単年の負担は報道の金額よりずっと小さく見えます

これが、クラブが巨額の移籍を実行できる理由の1つです。

長期契約という手

ここで前に書いたチェルシーの8年契約につながります。

同じ£100mでも、契約年数で年額が変わります。

契約年数年あたりの償却費
4年£25m
5年£20m
8年£12.5m

年数を伸ばせば、1年あたりの費用は下がる。 チェルシーはこれを組織的にやりました。

ただしこの手はすでに塞がれています。UEFAは償却の計算に使える年数を最長5年に制限しました。8年契約を結んでも、帳簿上は5年で割ることになります。

2025年以降の移籍が、上位に6件

このランキングでもう1つ目を引くのは、上位20のうち6件が2025年以降という点です。

選手移籍金
アレクサンデル・イサク2025£125m
モーガン・ロジャーズ2026£117m
エリオット・アンダーソン2026£116m
ヤン・ディオマンデ2026£107m
フロリアン・ヴィルツ2025£100m
サンドロ・トナーリ2026£92.5m

この2年で相場が一段上がりました。 前に書いた今夏の移籍支出放映権の分配と同じ流れです。収入が増えれば、使える額も増える。

なおネイマールの£200m(2017年)は、9年経ったいまも破られていません

売る側の帳簿も見ておく

ランキングは買う側の話ですが、売る側には別の意味があります。

売却したときの利益は「売値 − 簿価」で計算されます。前に書いた6月30日の記事のとおり、この利益はその年度にまるごと計上できます。

つまり——

  • 買う側:£100mを5年に分けて費用にする(年£20m)
  • 売る側:利益をその年に一括で計上する

非対称です。 だからクラブは売るのが好きで、アカデミー出身の選手(簿価ゼロ=売値がまるごと利益)は特に効率がいい。

上位20を見ると、ブライトンがカイセドを£100mで、アストン・ヴィラがグリーリッシュを£100m、ロジャーズを£117mで売っています。中位クラブにとって、大型売却は財務戦略そのものです。

見るときのポイント

移籍金のニュースを読むときは、こう考えてください。

  • 報じられる金額は公表値ではない。出来高込みかどうかで数字が変わる
  • 単年の負担は、金額 ÷ 契約年数。£100mの5年契約なら年£20m
  • 償却は最長5年まで。長期契約で薄める手は塞がれた
  • 売る側の利益は一括計上。買う側の費用は分割。ここが非対称

「£100mで獲得」という見出しを見たら、5で割ってください。 それがそのクラブの、今年の負担額です。


関連記事

出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。移籍金はクラブが公表していないため、掲載した金額はすべて報道にもとづく推計です。年あたりの償却費は契約年数を5年と仮定した筆者の計算で、実際の会計処理とは異なります。

記事一覧にもどる