オーナー・取締役テスト(ODT)とは — プレミアリーグがクラブの買い手を審査する仕組み
〜買収の発表と、承認は別〜No.53プレミアリーグのオーナー・取締役テスト(ODT)とは。買収が発表されても、それだけでは終わりません。何を審査され、何に引っかかると失格になるのか。規則の条文そのものから、28項目の失格事由を読み解きます。
「◯◯がクラブを買収」というニュースが流れます。
しかし、その時点ではまだ終わっていません。 買い手はプレミアリーグの審査を通る必要があります。
その審査がオーナー・取締役テスト(Owners' and Directors' Test、ODT)です。
この取締役テストは、買い手の資力ではなくその人物がクラブを持つのにふさわしいかを見るものです。
前に書いたリヴァプールの株式売却も、この審査の途中にあります。ベゾスの名前が報じられても、まだオーナーではない理由がここにあります。
どこに書いてあるか
プレミアリーグの規則集(Handbook)のSection Fが、まるごとこのテストに充てられています。条文の冒頭はこうです。
F.1 次のいずれかに該当する者は、取締役として行動することを失格とされる。いかなるクラブも、その者を自クラブの取締役として置くことは認められない。
出典: Premier League Handbook(規則原文PDF)
「置くことは認められない」——クラブ側の義務として書かれている点が重要です。買い手だけの問題ではありません。
失格になる事由は28項目
条文はF.1.1からF.1.28まで並んでいます。主なものを整理します。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 虚偽の申告 | 必要な情報を出さない、または虚偽・誤解を招く情報を出した(F.1.3) |
| --- | --- |
| 他クラブとの関係 | 他のクラブの経営に影響力を持っている(F.1.4)/他クラブの株式を持ったまま重要な持分を取得する(F.1.5) |
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| 法律上の欠格 | 会社取締役資格剥奪法などにより取締役になれない(F.1.6) |
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| 破産・倒産 | 個人・法人の支払不能(F.1.11〜F.1.13) |
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| 規制当局の処分 | チャリティ委員会、Ofcom、FCA、健全性規制機構、賭博委員会、HMRCなどによる資格停止・追放(F.1.20) |
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| 年金の不正 | 年金規制当局や裁判所により受託者から解任された(F.1.22) |
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| 除名クラブの役員 | リーグから除名されたクラブの取締役だった、または退任から1年以内(F.1.23) |
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| 性犯罪 | 2003年性犯罪法パート2による届出義務がある(F.1.25) |
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| 賭博 | サッカーへの賭けの禁止規定に違反した(F.1.26) |
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| 代理人 | 代理人業者、または代理人業者の取締役に相当する立場にある(F.1.27) |
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出典: Premier League Handbook・Section F
見落とされやすい3つ
① 虚偽の申告そのものが失格事由(F.1.3)
過去に何をしたかだけではありません。審査で嘘をつくこと自体が失格になります。しかも条文はわざわざ「代理人や名義人として他人のために動いている者を開示しなかった場合を含む」と書いています。
真の所有者を隠すことを、名指しで塞いでいるわけです。
② 「2回以上」という条項(F.1.21)
規制当局からの処分が2回以上あれば、それが現在有効かどうかを問わず失格になります。1回なら解除されれば通る余地がありますが、2回目からは消えません。
③ 代理人は取締役になれない(F.1.27)
選手代理人の業者、またはその経営陣は、クラブの取締役になれません。前に書いた代理人手数料の記事のとおり、代理人は移籍の交渉相手です。同じ人物が両側に座ることを防いでいます。
2023年に厳しくなりました
プレミアリーグは2023年の見直しで、失格事由を追加しています。
| 追加された事由 |
|---|
| 政府による制裁対象である個人・法人 |
| --- |
| 人権侵害(2020年グローバル人権制裁規則にもとづく) |
| --- |
| 犯罪歴の範囲を拡大——暴力、汚職、詐欺、脱税、ヘイトクライム |
| --- |
| 規制当局の範囲を拡大——チャリティ委員会、FCA、健全性規制機構、HMRC、賭博委員会 |
| --- |
| 倒産に関する規定の適用範囲を拡大 |
| --- |
出典: Premier League「Owners' and Directors' Test」(公式)
「政府による制裁対象」が入った背景は明らかです。2022年、ロマン・アブラモヴィッチが制裁対象になり、チェルシーの売却に至りました。前に書いたチェルシーの決算の記事につながる出来事です。
買収するときの手続き
規則F.28に、実際の流れが定められています。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 取得の10営業日前まで | 取締役になる各人について、申告書とオーナー憲章の署名済みの写しを提出 |
| --- | --- |
| 同時に | 理事会が求める資料一式を提出 |
| --- | --- |
| 提出する資料の例 | 取得後の組織図(関係するすべての法人と個人を明記)、資金の出どころ など |
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「組織図を出せ」というのは、誰が本当に持っているのかを明らかにせよということです。前に書いたAPTルールと同じ発想——実質を見るという考え方が、ここにも通っています。
通らなかったらどうなるか
罰則も規則に書かれています。
失格に当たる取締役が辞任せず、クラブも解任しない場合——
F.10 理事会は、書面による通知によってそのクラブを出場停止にする権限を持つ。
F.11 出場停止となったクラブは、リーグ戦に出場できない(育成年代のプログラムを含む)。
罰金ではありません。試合に出られなくなります。
見るときのポイント
買収のニュースを読むときは、この3点を分けて考えてください。
- 「合意した」と「承認された」は別。取締役テストを通るまで完了しません
- 審査は買い手だけでなく、取締役になる全員が対象
- 通らなければ、クラブごと出場停止になり得る
リヴァプールの件では、ODTに加えて独立サッカー規制機関(IFR)の承認も必要とされています。関門は2つです。
「◯◯が買収」という見出しを見たら、その下に「承認待ち」と書かれていないかを探してください。 たいてい書いてあります。
関連記事
出典
- Premier League「Handbook(Rule Book)」(規則原文PDF・Section F、F.1、F.10、F.11、F.28) https://resources.premierleague.com/premierleague/document/2024/07/26/e6332e5a-4ca6-4411-bf01-9f8ab76c6fb4/TM1534-PL_Handbook-and-Collateral-2024-25_25.07_V2.pdf
- Premier League「Premier League statement: Owners' and Directors' Test」(公式・2023年の改正) https://www.premierleague.com/en/news/3124956
- Premier League「What is the Owners' and Directors' Test?」(公式解説) https://www.premierleague.com/en/news/102375
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。規則の条文は筆者が要約・訳出したもので、正確な内容は原文をご確認ください。
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