監督の解任にかかる費用 — マンチェスター・ユナイテッドの決算に£23.2mと書いてある
〜監督も無形資産である〜£23.2m監督の解任にかかる費用は、決算書に「例外項目」として載ります。マンチェスター・ユナイテッドの四半期決算には、テン・ハフの解任にともなう費用が半年で£23.2mと明記されています。監督の獲得費用が選手と同じく無形資産に計上されることも含めて、数字で読みます。
監督が代わると「解任には違約金がかかる」と言われます。ところが、その金額はほとんど報じられません。クラブが言わないからです。
ただ、1クラブだけ、はっきり書いてあります。
マンチェスター・ユナイテッドは米国に上場しているので、四半期ごとに決算を出す義務があります。そこに金額が載っています。
決算書に書いてある金額
半年で£23.2m
同社の四半期決算から、そのまま引きます。
Exceptional items for the prior year quarter were a cost of £14.5 million. This comprised costs associated with the departure of former men's first team manager Erik ten Hag and various members of football staff.
(前年同期の例外項目は£14.5mの費用。これは前の男子トップチーム監督エリック・テン・ハフおよび複数のフットボールスタッフの退任にともなう費用である)
出典: Manchester United plc 2026年度第2四半期決算
同じ資料の内訳表を見ると、その半年間(2024年7〜12月)の例外項目の合計は£23,175千、つまり£23.2mです。
| 期間 | 例外項目 |
|---|---|
| 2024年10〜12月の3か月 | £14.5m |
| 2024年7〜12月の6か月 | £23.2m |
| 2025年10〜12月の3か月 | £0 |
監督1人の交代で、半年に£23.2m。 選手1人分の移籍金に相当する額です。
「例外項目」という置き場所
注目したいのは、この費用がexceptional items(例外項目)として分けて書かれていることです。
普段の営業費用と混ぜず、別枠にする。毎年起きることではない、という扱いです。
決算を読むとき、この欄には「その年だけの特殊事情」が入ります。監督の解任、スタジアムの減損、訴訟の和解。前にサッカークラブの決算の見方で「1回きりの数字に騙されない」と書いたのは、まさにここのことです。
監督は、会計上は選手と同じ扱い
獲得の違約金は無形資産になる
ここがいちばん面白いところです。
監督を他クラブから引き抜くときも、違約金を払います。ユナイテッドがアモリムを迎えたときは、スポルティングに£6.3mを払ったと報じられています。
この£6.3mは、費用としてその年に落ちるのではありません。無形資産に計上されます。
選手の移籍金とまったく同じ考え方です。「契約期間にわたって効果が続く支出だから、期間で割って費用にする」——これは「£100mで獲得」の本当の意味で書いた償却の考え方そのものです。
解任すると、残りを除却する
そして解任すると、帳簿に残っていた分を一気に落とします。
報道によれば、アモリムの退任にともなってユナイテッドは£6.3mの無形資産の除却と、最大£15.9mの引当金を計上するとしています。
- £6.3m … 獲得のときに資産計上した分の除却
- £15.9m … 今後払う可能性のある和解金の上限として積む引当
これは選手の減損とまったく同じ動きです。期待した働きが得られなくなったので、資産として持っていられなくなる。
監督も、帳簿の上では選手と同じ「無形資産」です。
なお£15.9mは上限であり、アモリムが一定期間内に次の職に就けば減るとされています。契約に軽減条項が入っているということです。
SCRから見るとどうなるか
監督の給与は分子に入る
2026/27から始まったSCRでは、分子に何が入るかが決まっています。
| 分子に入る | 分子に入らない |
|---|---|
| 選手の給与 | 事務・管理部門の人件費 |
| ヘッドコーチ(監督)の給与 | アシスタントコーチ、その他のコーチ陣 |
| 移籍金の償却費 | |
| 代理人手数料 |
出典: Premier League公式
監督の給与は入るが、コーチ陣は入らない。 この線引きはSCRとSSRの完全解説にも書きました。
解任すると、一時的に2人分になる
ここから素直に導ける話があります。
監督を解任しても、契約が残っていれば給与は払い続けます。そこへ新しい監督の給与が乗る。つまり一時的に監督2人分の人件費を抱えることになります。
分子が増えて分母は動かない。SCRの観点では、解任は比率を悪くする方向に働きます。
もっとも、成績が上がって欧州カップ戦に出られれば分母が大きく増えます。SCRを改善するために効くこと ベスト5で1位に挙げたのがそれでした。解任は分子を確実に増やし、分母は増えるかもしれない、という賭けになります。
覚えておくと効くこと
- 監督の解任費用は決算書の「例外項目」に出る。普段の費用と分けて書かれる
- マンチェスター・ユナイテッドはテン・ハフらの退任で半年に£23.2m(うち1四半期で£14.5m)と自ら開示している
- 監督の獲得の違約金は無形資産になる。選手の移籍金と同じ扱い
- 解任すると残った資産を除却し、和解金を引当金として積む
- SCRでは監督の給与は分子に入るが、コーチ陣は入らない
- 解任すると一時的に監督2人分の給与を抱える。分子が増える方向
金額が分かるのがユナイテッドだけなのは、上場していて四半期開示の義務があるからです。他の19クラブは年1回の決算しか出しません。だから監督交代の費用は、たいてい表に出てこないままです。
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出典
- Manchester United plc「Reports Second Quarter Fiscal 2026 Results」(公式・決算原本。例外項目£14.5m/£23.2m、連結損益計算書) https://ir.manutd.com/~/media/Files/M/Manutd-IR/Governance%20Document/2q-2026-earnings-release.pdf
- Premier League「New Premier League financial system explained」(SCRの分子の定義。監督の給与は入り、コーチ陣は入らない) https://www.premierleague.com/en/news/4467022/new-premier-league-financial-system-explained
- theScore「Amorim's firing could cost Manchester United £16M」(£6.3mの除却と最大£15.9mの引当) https://www.thescore.com/news/3487153/amorims-firing-could-cost-manchester-united-%C2%A3-16-m
- Sportico「Manchester United Reports 9-Month Profit, Despite Amorim Payout」 https://www.sportico.com/leagues/soccer/2026/manchester-united-profit-amorim-payout-million-1234901525/
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体・個人とも関係はありません。£23.2mと£14.5mはマンチェスター・ユナイテッドの公式決算に記載された例外項目の額で、監督個人への支払額とは限らず、フットボールスタッフの退任費用を含みます。アモリムに関する£6.3mと£15.9mは報道にもとづく数値です。SCRへの影響についての記述は、公表されているルールから筆者が導いたものです。
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