降格時の給与カット条項 — 収入減と契約の負担をどう調整するか
〜収入減と給与契約を一緒に読む〜No.20降格で収入が減っても、選手の給与が自動的に同じ割合で下がるとは限りません。減給条項の有無と、移籍・再交渉の条件が資金繰りを左右します。
本文の削減率は個別契約の確定値ではありません。降格後は所属リーグの財務ルールを確認し、プレミアのSCRをそのまま当てはめないようにします。
1. 減給条項
だから、プレミアリーグの選手契約には降格時の減給条項が入っているのが一般的です。
「クラブが降格した場合、給与を◯%減額する」。減額幅は交渉次第ですが、40%から50%程度で語られることが多い条項です。
これがあれば、収入の急落と同時に費用も落ちます。クラブが生き延びるための、最も基本的な保険です。
逆に言えば、この条項を入れられなかったクラブは、降格した瞬間に固定費だけを抱えることになります。
2. なぜ入れられないことがあるのか
条項は交渉で決まります。そして交渉力は、常にクラブ側にあるとは限りません。
残留争いをしているクラブが、質の高い選手を獲得しようとする場面を想像してください。選手側はこう言えます。「降格の可能性が高いクラブに行くのだから、減給条項は受け入れられない」。
クラブは、残留のために選手が必要です。だから条項を諦める。そして降格すれば、その契約が重荷になります。
最も条項を必要としているクラブが、最も条項を勝ち取りにくい。 ここに構造的な矛盾があります。
3. 昇格クラブの場合
昇格したクラブにも、同じ問題が別の形で現れます。
昇格すると分母(収入)が跳ね上がるので、補強のために給与を上げます。しかしその契約は、降格しても続きます。プレーオフ決勝の記事で触れたとおり、「昇格を狙って上げた給与は、失敗しても残る」。(→プレーオフ決勝)(→昇格と降格の収支)
昇格1年目のクラブが、慎重にレンタル中心の補強をすることがあるのは、この理由です。別記事で書いたとおり、レンタルなら期限で返せます。(→レンタル移籍)
4. SCRの下ではどうなるか
2026/27シーズンから、判定基準はSCRに変わります。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
ここでの85%は国内SCRのグリーン基準です。分母は規則上の調整後の値で、国内のシーズン中の判定では事前合意した収益等を使います。欧州大会の対象クラブは、定義・期間の異なるUEFAの70%も別に確認します。費用枠の増加は、同額の移籍金を使えるという意味ではありません。公式説明。
降格すると、この式の両側が同時に動きます。
| 動き | |
|---|---|
| 分母(収入) | 急落(中央配分が消え、パラシュートに置き換わる) |
| 分子(給与など) | 減給条項があれば下がる/なければそのまま |
減給条項がなければ、比率は一気に悪化します。ただし降格後はプレミアリーグの管轄外に出るため、SCRの直接の適用対象からは外れます。代わりにEFL(下部リーグ)の規則が適用される形になります。
問題は再昇格したときです。重い契約を抱えたまま戻る場合は、昇格に伴う収益調整と費用を計算し直します。必ず上限へ達するという意味ではありません。
5. だから何を見るか
降格したクラブの翌シーズンを見るときは、こう考えると分かりやすくなります。
- 主力が大量に去ったクラブ → 減給条項がなく、売るしかなかった可能性
- 主力が残ったクラブ → 減給条項が機能している可能性
- 1年で戻ってきたクラブ → 分配金と費用調整は確認材料。ただし昇格の原因を契約だけで説明しない
これも同じ話で、パラシュートペイメントは「トランポリン」と呼ばれることがあります。跳ね返れる理由は、お金が入ってくることだけではありません。契約に減給条項があれば費用も下がる可能性があることも、確認する材料です。
6. 昇格クラブに仕掛けられた罠
降格の裏返しが昇格です。上がったクラブの財務にも、同じ構造から生まれる落とし穴があります。
罠その1:お金が入るのは、買ったあと
放映権の中央配分は、シーズンを通じて分割で支払われます。順位に応じたメリットペイメントは、当然ながらシーズンが終わらないと確定しません。
一方、補強はシーズンが始まる前に済ませる必要があります。
つまり——
お金が入るのは、選手を買ったあと。
昇格クラブは、まだ手元にない収入を当てにして買うことになります。銀行から借りるか、分割払いを組むか、あるいは買わずに済ませるか。
レンタル移籍の記事で「昇格クラブはレンタル中心の補強をすることがある」と書いた理由が、ここです。移籍金を払わずに戦力を得られるからです。
罠その2:契約は降格しても続く
補強した選手の契約は、複数年です。降格しても、契約は自動的には終わりません。
すでに触れたとおり、多くの契約には降格時の減給条項(40〜50%程度)が入っています。しかし——ここが重要ですが——昇格クラブは、この条項を勝ち取りにくい立場にあります。
選手側から見れば、昇格したばかりのクラブは「1年で落ちるかもしれない」相手です。だから減給条項を受け入れる代わりに、より高い基本給を求めます。クラブは戦力が欲しいので、譲る。
最も条項を必要とするクラブが、最も条項を勝ち取りにくい。 この矛盾が、昇格クラブで最も鋭く出ます。
罠その3:SCRは1年目に効かない
2026/27シーズンから始まるSCRの式を思い出してください。
スカッドコスト ÷ 調整後収益 ≦ 85%
昇格した年、分母は跳ね上がります。中央配分£100m超が加わるからです。この年、比率にはかなりの余裕が生まれます。
問題は翌年以降です。
- 残留した場合:分母は維持されるが、1年目に上げた給与も残る。ぎりぎりで回り続ける
- 降格した場合:分母は崩壊し、分子(給与)は減給条項がなければそのまま
1年目の余裕が、2年目以降の重荷を作る構造です。8年契約の話と、構造がよく似ています。今の余裕を使って、将来の負担を作っている。
罠その4:パラシュートは3年で切れる
降格しても、パラシュートペイメントが入ります。1年目£48.95m、2年目£40.05m、3年目£17.8m。
ここに落とし穴があります。昇格して1年で降格した場合、パラシュートは2年分だけです。定着していないクラブには満額を出さない設計になっています。
つまり、1年で落ちたクラブは、上げた給与を抱えたまま、支援も少ないという最も厳しい位置に置かれます。
生き残るクラブは何をしているか
構造を裏返すと、対処法も見えてきます。
- 移籍金を抑え、レンタルと自由契約で埋める(分子に償却費を乗せない)
- 減給条項を必ず入れる(多少割高な基本給を払ってでも)
- 契約年数を短くする(これも同じ話で、長期契約はSCR下では足かせ)
- 昇格1年目の収入を、来季以降のために温存する
最後の1つが最も難しい。目の前の残留を捨てて将来に備える判断は、監督とファンの支持を失います。合理的であるほど、実行しにくい。
実際に今年いくら動いたかは、今夏の移籍支出にまとめています。
7. 読むときに確認したいこと
契約の中身は公表されません。しかし、外から推測する手がかりはあります。
- 降格直後に放出が集中するかどうか
- 降格クラブが2部で明らかに高給の選手を維持できているかどうか
- 昇格クラブの補強が買い取りかレンタル中心か
契約書の1行が、クラブの3年を決めます。
関連記事
出典
- BBC Sport「Are parachute payments now just 'trampoline payments'?」
- Premier League「Premier League central payments to clubs 2024/25 season」
- Premier League「New Premier League financial system explained」
- Deloitte「Annual Review of Football Finance: Premier League Clubs」
本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。個別の契約条件は公表されないことが多く、減給条項の内容は一般的に語られている水準を示したものです。
- Sportico「EFL Championship Final Worth $490M If Winner Stays in Premier League」
*