モーガン・ロジャーズの移籍金£117m — 英国最高額を、SCR116%のクラブが払った

〜売る側が正解だった〜£117m

チェルシーがアストン・ヴィラからモーガン・ロジャーズを獲得しました。移籍金£117mは英国史上最高額です。7年契約にした理由、ヴィラ側に残る約£110mの売却益、そして両クラブのSCRがどう動くのかを、決算の数字から読みます。

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夏の移籍市場が今夜閉まります。その最後に、英国史上最高額が動きました。

チェルシーがアストン・ヴィラからモーガン・ロジャーズを£117mで獲得。チェルシー公式の選手一覧に、背番号17で載っています。

面白いのはここからです。この取引で得をしたのは、買った側ではありません。

何が起きたか

記録は同じ夏に2度更新された

選手モーガン・ロジャーズ(23歳)
移籍アストン・ヴィラ → チェルシー
移籍金£117m
契約6年+1年のオプション(2033年までと報じられています)
記録英国史上最高額

前の記録は、同じ夏の£116mでした。マンチェスター・シティがノッティンガム・フォレストに払ったエリオット・アンダーソンです(Sky Sports)。

ひと夏で2回、英国記録が塗り替わったことになります。クラブ史上最高額の一覧はBIG6の移籍金ランキングにまとめてあります。

2年半前は£8mだった

ロジャーズの経歴をさかのぼると、金額の動き方が異常です。

時期移籍金額
2023年夏マンチェスター・シティ → ミドルスブラ£1m
2024年2月ミドルスブラ → アストン・ヴィラ£8m(達成条件込みで最大£16m)
2026年夏アストン・ヴィラ → チェルシー£117m

2年半で、£8mが£117mになりました。

なお、ミドルスブラからヴィラへの移籍では、マンチェスター・シティが25%のセルオン条項を持っていました。育てて売ったクラブに、あとから分け前が入るしくみです(→連帯貢献金のしくみ)。

売った側 — 教科書どおりの一手

帳簿に残っていたのは、ごくわずか

ここが決算の話になります。

ヴィラは2024年2月に£8m(達成条件込みで最大£16m)でロジャーズを買いました。移籍金は契約年数で割って毎年費用にしていくので、2年半たった時点で、帳簿価額はかなり減っています

仮に取得額を£16m、帳簿に半分残っていたとすると£8m。売値£117mから£8mを引いて、売却益は約£109m。取得額が£8mだったなら、さらに大きくなります。

前提帳簿価額売却益
取得£16m・半分残£8.0m約£109m
取得£8m・半分残£4.0m約£113m

※契約年数と達成条件の内訳は公表されていないため、帳簿価額は本サイトの推計です。実額は決算書の公表を待つ必要があります。

収益の29%に相当する

ヴィラの2024/25の収益は£378.1mでした(財務データベース)。

売却益が仮に£109mだとすると、収益の29%に相当する額が、一度に分母へ乗ることになります。

SCRの分母には、サッカーに関する収益と選手売却の純損益が入ります。つまりこの1件だけで、ヴィラの比率は大きく改善します。

前にSCRを改善するために効くこと ベスト5で、こう書きました。

売却益は速い、収入は続く。

ヴィラがやったのは、この「速いほう」の完璧な実行です。しかも売った相手は、来季ヨーロッパに出ないクラブでした。

買った側 — なぜ7年契約なのか

£117m ÷ 7年 = 年£16.7m

チェルシーが長期契約を使う理由は、はっきりしています。1年あたりの償却費を下げるためです。

契約年数年あたりの償却費
4年£29.3m
6年£19.5m
7年£16.7m

この手法は前に£100mを8年で割ると、年£12.5mで詳しく書きました。総額は変わりません。後ろの年に付け替えているだけです。

なお、UEFAは償却期間の上限を5年としています。国内のSCRとは扱いが違う点に注意が必要です。

SCR116%のクラブが、これをやった

問題はここです。チェルシーの直近の数字を並べます。

項目金額出典
収益(2025年6月期)£490.9m決算書
税引前損益−£262.4m決算書(プレミア史上最大の赤字)
SCR比率約116%本サイトの概算
UEFAからの罰金€3mクラブモニタリング2025

レッド・スレッショルドは115%です。すでに超えている水準にいます。

そこへ年£16.7mの償却費と、新しい給与が乗ります。分子が増える方向の一手です。

分母のほうはどうか

もちろん、チェルシーも分母を増やしてはいます。

  • 4年ぶりの胸スポンサーが決まりました(USDC、年£50m前後と報道
  • 2025年夏には£300m規模を移籍で回収しました。ただし決算に載った利益は£32mでした

売値と利益が違う、という話はSCRを改善するために効くことに書いたとおりです。

そして来季、チェルシーはヨーロッパに出ません。 SCRの分母をいちばん大きく動かすのは欧州カップ戦の賞金と試合日収入なので、そこが抜けたままです。

両クラブのSCRはどちらに動くか

方向だけなら、はっきりしています。

アストン・ヴィラチェルシー
分母売却益 約£109m が乗る変化は限定的
分子ロジャーズの償却費と給与が消える年£16.7m+給与が増える
欧州出る出ない
SCRの向き良くなる悪くなる

ヴィラは分母が増えて分子が減る。チェルシーは分子が増えて分母は動きにくい。同じ1件の取引で、逆方向に効きます。

もちろんこれは財務の話であって、ピッチの話ではありません。23歳の選手を7年押さえたことの価値は、比率には出てきません。

ただ、SCRという物差しで見るかぎり、この取引で正しい側に立ったのは売ったほうです。

覚えておくと効くこと

  • ロジャーズは£117mでチェルシーへ。英国史上最高額。前記録は同じ夏の£116m(アンダーソン)
  • 2年半前は£8mだった。ミドルスブラはその半年前に£1mで獲得している
  • ヴィラの売却益は約£109m(本サイト推計)。収益£378.1mの29%に相当する額が分母に乗る
  • チェルシーの契約は6年+1年。£117m ÷ 7年で年£16.7mまで償却費を薄めている
  • ただしチェルシーはSCR約116%、税引前損失£262.4m、来季の欧州なし
  • 同じ取引が、片方の比率を良くし、もう片方を悪くする

移籍のニュースを見たら、買った額ではなく、売った側の帳簿に何が残っていたかを考えてみてください。だいたい、そちらのほうが金額が大きく動いています。


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出典

本記事は個人が公開情報をもとに作成した非公式の解説であり、いずれのクラブ・団体とも関係はありません。移籍金と契約年数は報道にもとづく数値で、クラブは金額を公表していません。ヴィラの帳簿価額と売却益、チェルシーの償却費とSCR比率は、いずれも筆者による概算です。契約年数と達成条件の内訳が公表されていないため、実額は決算書の公表を待つ必要があります。投資に関する助言を目的とするものではありません。

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